八丁堀捕物ばなし
   第一シリーズ 1993-1994

妙心寺福寿院道キャスト
狩谷新八郎/役所広司 杉山虎之助/火野正平
江藤十兵衛/いかりや長介 遠山左衛門尉景元/古谷一行
髪結いの藤吉/田中邦衛


第1話「同心殺し

 北町の同心が二名も殺害された裏には、抜け荷を扱う口入屋がいた。そのまた裏には不倫をネタに脅される同心、その剣友の危機に介入する下場回り同心の狩谷は、死地を経て定回り同心に昇進する。北町同心たちのアットホームなドラマの、起こりの一話。

 ロケ地、メッタ刺しにされ殺された桜同心が口入屋の富蔵から賄賂を受けていたことを報告される北町同心たち、八幡掘明治橋上。富蔵の息のかかったゴロツキの溜まり場、広沢池西岸湿地、建物は別セットかも(池越し対岸に「民家」映りこむ)。二人目の同心殺し(傷は鋭い一突きのみ)金戒光明寺永雲院下坂。墓地でおきよを掻き口説く磯貝、西教寺墓地。ゴロツキのアジトに乗り込んで一暴れしたあと狩谷と藤吉が話し込む堂、大覚寺聖天堂。磯貝を説得し奉行所へ向かう狩谷たちがゆく朝の道、大覚寺参道大沢池木戸五社明神。襲撃を受けて狩谷が死闘を繰り広げる、五社明神舞殿前〜下鴨神社河合社前〜糺の森池跡。事後、磯貝の墓に詣でる狩谷、西教寺墓地。
*狩谷の剣友で、不倫の果て破滅に至る同心に益岡徹、いい味。


第2話「女と手首

 商家の屋根で見つかった手首から、大身旗本の家うちの揉め事に首を突っ込む羽目になる狩谷。
謎めいた状況は、表沙汰にできぬお家の内情から。武張った家に間違って生を受けた男と、実子への愛情ゆえ廃嫡に踏み切れなかった厳父と、最後は許し合い別れゆく。

 ロケ地、旗本・鳥越邸、相国寺大光明寺(内と外両方が使われる。藤吉が門番に話を聞くくだりでは門内側、夜に様子をうかがう際は方丈の塀際に隠れて門を見る。弥九郎に話を聞いたあと狩谷が憤然と押し入るくだりでは玄関前庭が使われている)。江藤におしまのことを報告する狩谷、釣りをしながら含蓄に富んだ示唆を与える江藤、二条城内濠。おしまが狩谷と虎を伴い、弥九郎を隠してある寺へ案内する、神光院中興堂。狩谷が虎に十手を預けるのは本堂西側。事後、鳥越邸からの帰途鳥越の用人が狩谷に「若殿の御霊前に」と金をことづける、妙心寺福寿院への路地。その後、狩谷が虎に金を託し虎が狩谷に十手を返す、大通院裏路地のクランク塀ぎわ。
*起こりの一話から一転、北町同心たちの日常をないまぜに進むストーリィ。最初にパタナイズされたエピソード挿まれフレームを作る。曰く、「手首」を前に面倒臭いことは御免とばかりボヤきまくる杉山、勇ましく腕自慢の単純な小室、無意味にはしゃぐ若手の栗原、ナレーションも担当で薀蓄たれの上司・江藤。ここへ狩谷を慕う杉山の妹と突っ込み担当の江藤の妻が入りファミリーを形成する。たまにお奉行様と隠密回りの秋山が顔を出し、髪結いの藤吉がつかず離れず狩谷をサポートするという小宇宙が描かれる。


第3話「花あらし

 八年前佐渡送りになった唐獅子の文三が島抜けして江戸に帰還、途端に始まる復讐。密告者や裏切った者が次々と惨殺され、遂に捕縛担当者の杉山に手がのびる。
奉行のハッパ受け秋山は虎の妹・佳代を囮に文三を誘き出す作戦を立てる。これを虎に黙ってやったもんだから、伏兵作戦が破れ凄絶な展開に。シャイニングの如く斧で小屋の戸を叩き割る文三、最後は唐獅子を朱に染め憤死。

 ロケ地、長命寺へ花見の江藤の妻と佳代、大覚寺放生池堤。佳代を囮に文三を待ち伏せる小名木川畔の農家、大堰川河川敷(萱葺「民家」ほか船小屋あしらい)。妹のもとに駆け出す虎の最初のほうは大沢池堤。同心役でも走り屋は変わらず小気味いい全力疾走を見せる。


第4話「おとうと

 凶盗続発するなか、暢気に水茶屋へ登楼っていた虎、その茶屋で侍と酌婦の心中が発生、しかしこの心中は偽装で浪人を集めて凶行繰り返す一団の仲間への制裁だった。
心中した侍には胸を病み弟にお家再興の夢を託す兄がいて、浪人の困窮と悲哀が語られる。弟の死の真実を知った兄は、単身病んだ体で一味のアジトの道場に斬り込み死す。

 ロケ地、市中で一服中の狩谷と虎のもとへ政吉の報告が入る、真如堂三重塔前茶所に茶店セット(二人はところてんを啜っている)、背景に本堂や塔も映り込む。弟のことを木村道場(どこかの長屋門の内側を使用・場所不明)の主と話す兄、大覚寺護摩堂前。歩み去る道場主がゆく、放生池堤
*心中死体の襦袢に締められていた帯上げの不自然さに気付く虎、見事な粘りだが「兄」の死因作ったのは虎の跳ね上がりでは…ま、いっか。今回も走りまくり火野正平。


第5話「誘拐

 師走、大掃除の最中入ってくる連続誘拐事件、三軒の商家の子弟が揃ってミッシング。
身代金受け渡しに北町の同心たちが指定され、行く先々で場所変更の文、結局徒労に終わるが、この間メインターゲットの倉田屋に偽同心現れ、大金を掠め取ってゆく。犯人は倉田屋を深く恨む浪人とゴロツキ、解放された子らからの情報と隠密回りの秋山の探索で人数が繰り出され、子は救われるが倉田屋の過去の悪行と浅薄な性格が露になり後味の悪い結末を迎える。

 ロケ地、振り回される同心たち、狩谷の赴く品川開山寺、仁和寺観音堂。栗原の赴く目黒の茶屋、大覚寺天神島。右往左往させられる描写、狩谷の走る鳥居に吉田神社竹中稲荷、栗原の走る水辺に大覚寺放生池堤。虎は鰻屋からお茶漬け屋でげっぷげっぷに(出てくる品に結び文)。各自三転し結局徒労に終わったことを知る三人の集合場所・常山寺、金戒光明寺三門。そこへ倉田屋以外の子らが解放され寺僧に伴われ降りてくる石段、金戒光明寺石段。倉田屋の回想、六助に持ちかけられた盗品取引の場、のち六助をボコらせる祠、鳥居本八幡宮舞殿


第6話「同心の恋

 正月、狩谷が助けた娘は山根藩の権力闘争に巻き込まれ、数奇な経緯のすえ小室同心の妻となる、クマさん全開のお話。

 ロケ地、ゴロツキに襲われる山根藩家中の娘・妙を助ける狩谷と小室、大覚寺有栖川畔。山根藩士・金子の死体上がる千本杭、罧原堤下河原。藤吉が偵察に入る山根藩江戸屋敷、妙心寺天祥院門。市中で聞き込みの同心たちのアイキャッチに八幡掘(白雲橋欄干越し)。「許婚者」の藩士・山口が妙を連れ出し殺害しようとする、鳥居本八幡宮(竹林、鳥居下広場)。妙の危機を聞いた小室が走る、嵐山自転車道(手前に六地蔵をセット)
*美女と野獣を地でゆく展開、斬られ深手負った妙の、「来てくれると思っていた」「守り神」の殺し文句最高。よく悪役で出ている小室氏の善人丸出しのくしゃくしゃ泣きも絶妙、クマさん可愛すぎ。狩谷と虎への「妙どのに惚れていたのだ」の告白のくだりも傑作。


第7話「凶刃

 町道場の後継争いは、五年の月日を経て熟成された憎悪によって悲惨な結末を迎える。
陥れられ片腕を潰され、恋人も前途も奪われた男は凶剣を磨き帰還、自分を放逐した師範代たちを次々と襲い惨殺、最後の一人を殺る寸前に狩谷に阻まれる。
そして、邪魔者が全部消えたことに一人祝杯をあげる、師匠の娘を姦計により娶った男に待っていた運命は、己が妻に刺されるという最期。また謀られていたその女も自害、二つの死体を前に女は怖いと呟く虎に女は悲しいもんなんだと怒鳴る狩谷なのであった。

 ロケ地、師範代たちの惨殺死体が見つかる、広沢池西岸。立ち戻った弁之助に恨み言をぶつける美緒、仁和寺塔前。弁之助の回想、美緒に簪を渡す婚約時代、今宮神社合祀摂社。後藤が出稽古に赴く白金台の伊達紀伊守下屋敷、大覚寺大門。最後に残った後藤を待ち受ける弁之助、しかし中味は狩谷、相国寺塔頭道違う…植え込みの形が??


第8話「待ち伏せ

 かつて江戸を荒らし回った盗賊・下和田の運平が甲州で捕縛され、北町から人数出て江戸へ護送することに。しかし運平の手下が護送途中に襲撃、しかも北町与力・梶原がこれに手を貸していた。

 ロケ地、江戸での運平を取り逃がす回想シーン、大沢池木戸大沢池(船上)。運平引渡し場となる甲州犬目峠、谷山林道。犬目宿、露天風呂で運平の情婦に誘惑される虎、摂津峡山水館の峡谷に面した露天風呂。このあと裏木戸開けたまま女としけこみ三沢代官所の役人が惨殺される原因を作る。梶原の指示でゆく甲州の裏街道、休憩を取り運平一味の襲撃を受ける無人の街村のあばら家、みろくの里オープンセット。
*盗賊と通じる与力に石橋蓮司、顔に散らしたコンタミが凶悪さを演出。必要以上に体を傾けて脇息に凭れる座り方や扇子をぱちぱちやる仕草ひとつひとつに石橋蓮司の「こだわり」が感じられる。ラスト、運平の情婦にぐりぐり刺されるシーンや、狩谷と秋山二人に斬られ一旦倒れたあとがばっと起き上がり咆哮するシーンなど凄絶。


第9話「野良犬

 深川から身請けされた女が築く幸福な生活は、亭主の横死により終わりを告げる。
女を得るため亭主が採った強請りのネタは、南町同心の旧悪を暴きだす。

 ロケ地、賭場での探索の帰途狩谷たちがゆく夜明けの水辺、大覚寺放生池堤(放生池に影を落とす木々と雲、シンメトリがたいへん美しい)。南町奉行所、大覚寺明智門。島村に話を聞く狩谷、の前。
*タイトルはおもんが餌をやっていた柴犬が押し込んできた島村の手をガブリとやるエピソードから。*靡かぬ女を殺した南町同心・島村を怪しむ同僚は凶盗の手入れに事寄せて斬殺される。この島村に本田博太郎、独特のイントネーション、かりかりと畳を掻く仕草、江藤にハメられたことを知った時の歪んだ笑い顔、スクエアでキレてる役も怖い。*冒頭の朝顔市、メイキングでは松尾大社参道にセットされたというが、画面からはそれを示すものは見出せず。


第10話「送り火

 狩谷が偶然知り合った薄幸そうな薬屋の女将、典型的甘ちゃん夢想家のDV亭主はもう長く家に寄り付かず冷え切った関係。
諦めきったように事態に流される女は亭主の危機に一瞬だけ激情を見せ、また元の日常にひらりと身を翻し戻ってゆく。

 ロケ地、蘭学者を探索中の南の隠密回り同心・鳴沢が彦二郎に「幕府の犬」と刺される、永観堂墓地。のぶ母子が仕入れからの帰り狩谷と行き会う、仁和寺中門(背景に二王門と金堂)。このあと亭主のことを狩谷に話す間子供がじゃぶじゃぶ水遊びの川、上賀茂神社ならの小川。亭主から金を持ってこいと命じられたのぶが船宿へ行く際渡る橋、中ノ島橋
*捕まった亭主が自害したことを告げに来た狩谷にしなだれかかりその指を血が出るほど噛むのぶ、店先で呼ぶ客の声に応えて立つ、一瞬で切り替わる表情、秀逸。


第11話「大盗賊

 続発する凶盗、置いてゆく目印からかつて江戸を荒らし回り、虎や小室をきりきり舞いさせた大盗・丑三の半兵衛の名上がる。
半兵衛の仕業ではないという藤吉の前に当の半兵衛が現れ、偽者が出たと助力を要請。とうの昔に足を洗い田舎住まいの老盗が職人肌の一分を見せるのに影から狩谷の助力、かつて半兵衛が追放した盗っ人をシメて落着。見逃し送ってくれる狩谷を称えて見得を切る半兵衛で幕。

 ロケ地、凶盗の手口を話しながら行く半兵衛し藤吉を刺客が襲うのを密かに防ぐ狩谷、妙心寺海福院前路地。藤沢へ帰る半兵衛を見送る狩谷、山室堤道


第12話「約束

 父の墓参の帰途行き合わせた女の遺言・赤子を父の許にとの願いを聞き届ける狩谷、律儀に「約束」を果たす。
子の父は元盗賊で、足を洗い真面目に暮らしていた煙管職人であったが、昔の仲間に脅され江戸に出て来ており、しかもその仲間は近頃江戸を荒らし回っている凶盗。仕事が終われば赤子の父を消す算段をしていた。
調査のすえ一味を追い詰め鎮圧、赤子の父は二年の寄場送りとなり、寄る辺に赤子を送ってゆく狩谷、人情味溢れる一作。

 ロケ地、目黒村の山中、雨宿りの堂で赤子を託される狩谷、大覚寺五社明神舞殿(壁と扉セット)。凶盗・下野の弁蔵がツナギの船着は大覚寺大沢池船着き(手すり付きの小さいほう)。恋人たちの渡る川、ラスト狩谷が赤子を送り届ける街道筋、不明。
*突然組屋敷に連れて来られた赤子を囲み同心たちの頓珍漢な会話、赤子は何を食べる・乳を飲ませるのくだりで虎の「女のおっぱい、あれはいい」の低く呟く一言、傑作…アドリブか。


第13話「花晴れ着

 行く先々で好かれる苦労人の美女・駄菓子屋のおぬいは、酒問屋・舞阪屋の妾。
本妻の不貞と散財にキレた舞阪屋の主人が妻を殺してしまった罪を自ら被り斬罪の場に赴くが、狩谷らの奔走で真実が明らかになる。

 ロケ地、よろず河岸に流れ着く舞阪屋の本妻・おえんの死体、木津川流れ橋下手左岸汀。橋上で検屍を見るおぬい。おぬいを呼び出し事情を聞く狩谷、南禅寺三門僧堂坂(通用門前〜鐘楼前)。おぬいが罪を告白し捕われたあと、腑に落ちぬと政吉に話す狩谷、大覚寺天神島・大木の根方。その時行きかかる狩谷を尾けていた船頭を見る、天神島北側の水路。その船頭の小屋を探る政吉、広沢池東岸に小屋セット。事後、狩谷の想像の土壇場で晴れ着まとい死地へ赴くおぬいの姿(タイトルの画)は処刑場から大沢池堤の桜花の下〜狩谷が佇む放生池堤石橋上。


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