御家人斬九郎

第三シリーズ
男二人/虎退治/姉上/三十六人斬り/馬の脚/美人局/犬も歩けば/切腹志願/可愛い目撃者/待ちぼうけの女/深川節


第1話 男二人 1997.10.22

 旗本・土屋家の「若様」が荒れ狂うのを斬九郎と問屋場の政五郎がおさめる話。土屋の家は事後廃絶となる。
政五郎に北大路欣也、気障っぽい演技は本作によくマッチ。

 ロケ地、河野家のお抱え力士・花嵐の護衛つとめる斬九郎、お参りの神社は松尾大社本殿。斬九郎は舞殿に腰掛け豆餅をむしゃむしゃ。土屋の若様が芸者に無体を働くのを止めた斬九郎に刺客が放たれる、夜の大覚寺五社明神。襲撃犯の若様が失敗に怒る、護摩堂。この際斬九が斬り捨てた旗本の始末を西尾伝三郎が告げる(+るい殿の皮肉つき)仁和寺観音堂前。暴虐つのる若様、斬九郎を呼び出す鳥越浄妙寺三ツ灯籠前は仁和寺九所明神。政五郎の介入は怒りをいや増す結果となり、斬九と政五郎を戦わせる若様。立ち回り、ぐるっと一周のカメラ。花相撲当日、尾張家江戸屋敷庭、土俵が設けられているのは仁和寺仁王門右手のグラウンドで、ここから宸殿の方を塀越しに見る。遠景には仁王門や庭園入口の門、塔など映り込む。若様と黒手組が参詣のお弓をいやらしい目で見る、仁和寺金堂。彼らに慰みものにされたお弓が放心して立つ小川、上賀茂神社ならの小川。これを見る蔦吉、神事橋上。事後、ようやく回復したお弓が巡礼を見て枝垂桜の蕾を手に取る、仁和寺鐘楼前。小田原へ旅立つ政五郎を見送る斬九郎と蔦吉、大覚寺放生池堤

■殺陣 政五郎と立ち合いの斬九、互いに手の甲と帯を切り裂く迫真の殺陣はタメも利いていてなかなか見せる。
■ふっくら大猫 東八の白猫、処々でさまざまな表情を見せてくれるが、斬九が政五郎としみじみ呑む席の手前、ザルに敷いた座布団に寝て大きな尻尾をぴこんぴこんと振る仕種がたまらなく可愛い。


第2話 虎退治 1997.10.29

 斬九郎が受けた探し物の「かたてわざ」には物騒な武器が絡んでいた。
儲け話に一枚噛もうと寄ってきた尼子の子孫の浪人と共に騒がしく虎の軸を探し回る斬九郎、しかしブツが物騒過ぎて、薩摩藩士に襲われるは、公儀隠密はイヤーな手で迫ってくるはで大騒動、町方に捕われそうになったり。
そして、斬九から「ブツ」を盗って公儀隠密と接触の尼子浪人は、「徳川家はウチより格下」と言い放ち英式銃の図面に火を放つのだった。

 ロケ地、野田屋隠宅、中山邸通用門。尼子兵衛之助に会う水際、大覚寺放生池堤。野田屋で薩摩藩士に襲撃された斬九と尼子が潜む、大覚寺五社明神。旅立つ尼子一家、嵐山自転車道

■先の戦は応仁の乱 尼子兵衛之助に寺尾聡、むさい浪人を好演。お家柄が自慢の彼は隠密にも不穏当な発言をかますが、東八の親父相手のご先祖談義に出てくる「戦」は関ヶ原ではなく応仁の乱…京都で今でも語られる「前の戦争」と同じなのが笑える。
■相生町の親分の包帯 捕り方に囲まれた斬九郎を逃がすのに、佐次の十手取り上げてぶっ叩く蔦吉姐さん…親分がかわいそうだよぅ。
■にゃ〜お 一瞥して散々な評価をした癖に、大金を生むと聞きしみじみと終日「虎の軸」を眺める麻佐女さま。ファンキーな虎の鳴き声で話は締めくくられる。


第3話 姉上 1997.11.5

 大奥勤めの姉・いちの宿下がり、入費に蒼白の母子。斬九のめまぐるしいバイト三昧。帰った姉は厳格そのもの、肩の凝る日々が続く。
そこへ三洲屋の娘が縫い針紛失の咎で大奥から暇を出され、養家から手討にされかかるという事態が出来。いちにとりなしを頼みに来るが、大奥勤めへの覚悟が足りぬとぴしゃり。情のない姉にキレる斬九、いちを罵り家を飛び出し、手討の場に介入し、娘の髪を切り落とし「髪は女の命・娘は死んだ」と強弁しおさめる。

 ロケ地、舟久付近の深川のイメージに八幡掘東縁部、OPと同じ。いちの駕籠を見送る蔦吉、嵐亭あたりを対岸から見たものと思われるが確証持てず。いちの駕籠を見送る斬九郎の立つ土手、嵐山自転車道と思われるが、判断材料に乏しく不明。

■音 舟久の二階で深川のざわめきを聴く姉上、まことによくできたSE、しかしながら行々子の声は些か季節外れかも。
■口説きに来ました 東八でバイト中の斬九郎に、三洲屋の件を頼みに来た蔦吉の切り出しは殺し文句、酒器を取り落とす斬九が笑える。卓上で顔を洗う大白猫もなかなか利いている。


第4話 三十六人斬り 1997.11.12

 キレてる本田博太郎全開の一作。もう、冒頭から痛い表現が続出。とんでもない凶悪さ乱暴さに町方もたじたじ、佐次と西尾は散々にやられ、その様を瓦版に書かれる始末。つのる赤札久五郎の暴虐、恐れて誰も触らぬなか苦衷の末打って出る西尾はたちまち危地に陥るが、幼馴染の難渋を放って置く筈もない斬九郎の剣がワルどもを切り裂く。手柄を雷おこしに譲る斬九、しかし最強の剣士が怯えるのは母の旅先からの文。

 ロケ地、お力が久五郎の手下の襲撃を受ける神社、不明。お力が斬九郎に西尾の窮地を放置すれば後悔すると告げる、金戒光明寺三門

■本田博太郎の迫力に他のもの全部霞む 「煮え湯」を本当に飲ませる、事あるごとに「喚く」、最後に斬九郎に斬り下げられる際の仕草(↓/→/←)も凄い。もう、台詞回しの端々がキレまくり。側近の大男が不気味さに相乗効果を発揮。


第5話 馬の脚 1997.11.19

 斬九のバイト先の旅の一座はまるごと凶盗・赤不動の又八一味であった。蔦吉の下にいる見習い芸者・おなみが一座の花形・市丸と駆け落ちしてしまい事態が動き出す。町方の手回り寸でのところで雲隠れの一座、裏切り者の市丸を始末に現れた子安村で斬九郎に全員斬って捨てられる。

 ロケ地、川崎宿の先・子安村へおなみを訪ねる蔦吉、間人海岸。おなみの回想、故郷の母のことを聞かされ泣き崩れる市丸、中ノ島橋

■ヒヒーン 凝りをほぐして貰ったあと夜食中の斬九に「飼葉のお時間?」とからかい馬の鳴きまねをして消える麻佐女さま…。
■ごらんな、馬の脚が追いついて来たよ おなみと市丸を守り赤不動一味に立ち向かう蔦吉、囲まれるも、夜通し駆けに駆けた斬九郎が子安村に到着の際の名台詞。
■馬の脚 一座に雇われる斬九、まず女装してみるが体が大きすぎて不気味、立会いは相手をぶっ叩いて倒してしまいバツ、結局馬の脚役に落ち着くが、千秋楽では逃走する一味に一人舞台に取り残される後足が哀れ。


第6話 美人局 1997.11.26

 美人局を働く二人組と縁を持つ斬九、片棒担いだりもして次第に親交を深めるが、片方は抜け荷を探る長崎会所の密偵だった。
薩摩藩と組んだ商人が取引の現場に潜入した美人局二人組、松吉が撃たれたあとに踏み込む斬九、狂気じみたチェスト侍を血祭りにあげるが相棒の腕の中で松吉は息絶える。

 ロケ地、冒頭川中で大暴れのチェスト侍、上賀茂神社ならの小川。西尾の追う事件を佐次に問う斬九、上御霊神社高倉前。ここで美人局の話を聞き話しながらくぐる、楼門。美人局を捕まえた経験はと佐次に問う斬九、祇園付近の白川。夜の橋上、美人局の被害に遭った男が褌を落としながらあたふたと行く、中ノ島橋。沖合に停泊中の船を探った美人局二人組が帰途襲撃される、中ノ島橋下右岸河川敷。薩摩藩上屋敷、青蓮院長屋門。国分屋との夜陰の取引、広沢池東岸に屋形船。事後、蔦吉と橋上で事件を述懐の斬九、渡月橋(西高瀬川畔より/橋上から下流)

■ごつい女形 美人局の女役は松井誠、大覚寺かな、と思われる鐘楼に飛び乗り斬九にごごーんとやられる派手なシーンは目に残る。


第7話 犬も歩けば 1997.12.3

 斬九郎が用心棒を依頼された元辰巳芸者の近江屋の妾・おきぬは、運命に翻弄され江戸を去り故郷へ帰ることとなる。
彼女がうかうかと気を許した御家人は、近江屋乗っ取りを企み、放蕩者の馬鹿息子を操ろうとしていたが、チンピラの度し難い所業により陰謀は頓挫する。野望挫けた男には、斬九郎の刀が引導を渡すのであった。

 ロケ地、麻佐女さまが薙刀を指南の市ヶ谷下久世家、相国寺大光明寺。おきぬの護衛について歩く斬九、大覚寺放生池堤〜錦水亭。このあと何遍も放生池堤で犬の桃ちゃんと戯れる斬九が出て来る。舟久の付馬が殺される、相国寺鐘楼脇の溝。事後、故郷へ帰ると言い桃ちゃんを斬九に託すおきぬ、大覚寺心経宝塔(塔基壇部の石垣を映し遠景に護摩堂と大沢池の水面が映りこむ)。船橋へ旅立つおきぬ、大沢池(船上)

■むくむくの桃ちゃん おきぬの愛犬・桃ちゃんは結局斬九に押し付けられ松平家へ。しかし麻佐女さまの大事な本に粗相を仕出かし縁先に放られる。斬九、懐に桃ちゃん入れて歩く姿がなかなか決まってる。


第8話 切腹志願 1997.12.10

 斬九郎が関わった共に切腹するという父子、背後には雷おこしが追っている汚職事件が絡んでいた。
西尾と蔦吉から迫られ、真相を究明すべく動く斬九郎、頑固親父の息子の納得いく形に事を運んでやる人情をばりばり発揮。わざとらしいくらいの所作がぴたりとはまる、味わい深い一作。

 ロケ地、仙之助の女房の幼い弟が花井求馬に無礼討ちされる神社、北野天満宮拝殿裏紅殻塀前。斬九の仕込みで回向院裏に呼び出される求馬、待つは仙之助、仁和寺九所明神前。留坊の回向にゆくという麻佐女のお供の斬九、広沢池東岸堤道。

■なんか言った? 早くかたてわざに行けと急かす麻佐女さまに「強つくばばあ」/留坊の回向を終生行うという麻佐女さまに「このまま仏門に、いやいきなり墓の中」などとぼそぼそ呟く言葉は全て聴かれており「なんか言った?」と聞き返されてしまうのだった。
■桃ちゃんじゃないよね 本所割下水の裏長屋をとっとっとゆく大きな白犬、赤い前掛けが印象的。


第9話 可愛い目撃者 1997.12.17

 病身の妻を抱え、ぐれた息子の尻拭いをして回り、それでもお家第一の与力の行き着く先には、悲劇しか無かった。
自らの追う殺人犯が息子と知った父親は、息子可愛さか保身ゆえか、関係するチンピラを殺すに至る。そして、息子の殺人現場を目撃した母子をも狙うこととなる。底まで堕ちた息子をなお庇い、職務上得た情報を頼りに人さらいまでしてのける与力だが、母を嘆かせた挙句その死も知らず「くたばり損ない」呼ばわりする息子を斬って捨て、直後自刃してのけるのだった。

 ロケ地、旅の母子が中林兵庫の殺しを目撃する、大覚寺天神島。息子に正吉殺しの件を問い詰める中林、仁和寺塔前疎林。その場を悄然と去る中林の行く手に二王門。さらわれたりよを求め妙久寺へ走る佐次、中林の待つ林、仁和寺疎林。旅立つ母子を街道に出て見送る佐次、山室堤道。水鳥の鳴く汀に佇む佐次をひやかす斬九郎、広沢池東岸

■レンジダンス 村上同心の祝言の席、息子のことを尋ねられた与力・中林勘助が、場を繕うため踊る鶴亀踊り、ただひたすら「怖い」。石橋蓮司は奥が深い…ビーフンや缶コーヒーのCMもなかなかだが、少し前の関西ローカルの食番組では「タバスコ刑事」なる珍芸を披露していたりして…見る者を凍らせる。妻を失った際の慟哭、どら息子に縋られた際の微苦笑とも嘆きともとれる複雑な表情、蓮司はやっぱりサイコーに渋い。
■佐次の純情 目撃者の幼女の母「りよ殿」を自宅に匿う相生町の親分は、マジ。マメにギフトを贈ったりもする。彼女の危機には命をも顧みずただ一人駆けつけるなど、一途な可愛さを見せる。そんな親分をからかう麻佐女と斬九に「やめてください」とこちこちの河童頭がおかしくも愛らしい。故郷へ旅立つりよに「いるから、ずっと俺」「待っているから」佐次親分、メチャかっこいいぞ。


第10話 待ちぼうけの女 1998.1.14

 斬九郎が火事場から逃れた女を助ける。火元は岡場所、女はそこの酌婦。舟久の二階に預けたその女は甲州で男と暮らす夢を抱いているが、盗みの小道具に利用された女のもとに男が辿りつくことはなかった。

 ロケ地、朝日楼のおしま、足抜への追っ手から逃れ身を隠す橋下、上賀茂神社ならの小川神事橋下。斬九に連れられ甲州街道をゆく女、山室堤道(ラストには遠景に富士山を合成)、佐次らが粂造を追って現れる、大覚寺大沢池堤

■雪 事後、屋台で呑む斬九の傍らに腰掛ける蔦吉。やがて降り出す雪。「惚れてたんでしょ」「好きな男いねぇのか」「好いた人は」「いるよ」「止しましょ」「聞きたくない」の会話の果てよろける蔦吉を抱きとめる斬九「俺の好きなのはな」「雪、だ」ぱっと体を離し別れゆく二人、雪の中別々に歩みだす。このパートをそのまま抜き出して時代劇のプロモーションにもなり得る極上の映像。
■動物 深川が火元と聞き飛び出す斬九の残した鉢を頂く東八の白猫。晦日の町をへっへっと歩く白犬、首には紅白の幣。ラストの屋台周りをスローモーションでうろつく柴犬、無視できぬ小道具の生き物たち。
■走る男 最後の最後まで姿を見せない粂造、ラスト近くに追われて堤を疾走するシーンでようやく登場、走るは火野正平、往年の走り役は健在。


第11話 深川節 1998.1.21

 斬九郎の亡父の従弟・松平兼国(越前桑山藩江戸家老)、仕官の口を持ってくる。返事を延ばし延ばしの斬九郎、深川に未練たらたら。しかし蔦吉の親身の意見に仕官し越前へ赴くことを決意、だが許婚者の須美が若く熱血漢の桑山藩士・寺田に惹かれていることを知った斬九は身を引くのだった。

 ロケ地、桑山藩の内情を語る寺田、神護寺石段下。ここへ国家老の手先が襲撃、刺客が潜む五大堂脇、縁下から基壇亀腹越しのショット。桑山藩江戸屋敷、大覚寺大門。ラストシーン、祭礼の神社で大喧嘩の斬九に蔦吉も参戦、大覚寺五社明神

 蔦吉を座敷に呼び初めてじっくり舞を見る斬九、蔦吉の舞う深川節に見惚れる…蔦吉姐さんの妖艶さは言うまでも無いが斬九の表情が秀逸。ラストの祭りの喧嘩、蔦吉の「江戸も静かになると思ったのに」との憎まれ口の嬉しそうなこと、斬九が裾ぴろんと捲り「またな」も泣かせる。


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