必殺渡し人
1983ABC/松竹


キャスト
惣太/中村雅俊 大吉/渡辺篤史
お直/藤山直美 お沢/西崎みどり 鳴滝忍/高峰三枝子

 「かまいたち」と異名をとった女医の鳴滝忍、鏡研ぎを生業とする惣太は市井に暮らすが元は凄腕の渡し人、忍の長屋に住む隣人の大吉が加わり、渡し人稼業に舞い戻る。大吉は怪力系、出陣の際には砂の入った樽で鍛錬してから出かける。殺しの際はレントゲンが映る。惣太は手鏡に仕込んだ針で仕掛け、出陣前に念入りに研ぐのが決まり。忍の得物は水晶の指輪、これで相手の喉元を切り裂く。出陣に際し斎戒沐浴し、人体模型に嵌めてある指輪をとり赴く。
渡しチームはとっても仲良し、アットホームな日常が惣太の女房・お直を中心に描かれる。官能的なエピソードが散りばめられているのも本作の特徴。


第1話「涼みの夜に渡します」1983.7.8

 「渡し」チームが結成される経緯を描く重い「起こり」の一話。
蘭法女医・鳴滝忍の診療所に堕胎を頼みに来た女・お沢から話が始まる。大目付・水野の屋敷に奉公する彼女は馬鹿息子の慰み者として扱われ、孕んだ末身の始末を命じられ忍のもとを訪れたのだった。思い余って我が身を痛めつけ人事不省に陥る彼女を手厚く看護する忍や近所に住む大吉・惣太夫婦、大吉が腹の子ごと引き受けることになりその母は水野屋敷へ赴きナシつけに行くが水野の奸計でお沢と共に町方に捕われ責められ、大吉の母は死にお沢の子は流れてしまう。この悲惨を目の当たりにし元の稼業に戻ることを決意した惣太は忍に図る。その場に来合わせ密談を聞いた大吉も参加を表明、忍に託されていた薬代を渡し料にチームが始動する。事後、生死の境を彷徨い記憶を失ってしまったお沢は大吉の女房となる。

ロケ地
・チームのツナギの場となる神社、北野天満宮本殿裏手紅殻塀周辺、渡し料の置かれる祠、地主神社
・死んだ母を負って歩く大吉、棺桶を背に共にゆく惣太、罧原堤下河原。遠景の処理が印象的。
・出陣の惣太、中ノ島橋上。同じく大吉、橋下堰堤前(潜る)


第2話「秘密の宴で渡します」1983.7.15

 夫婦交換会なる怪しげな集りを主宰する札差が二組、町の評判を聞き青い悩みを抱える渡し人・惣太と大吉は釣り込まれそうになる。あまりの淫靡さに逃げ帰る渡しチーム夫婦たち。得意先からの依頼断れず参加の担ぎ呉服屋の夫婦が破綻寸前に追いやられ、悩んだ挙句断りに行った先で密殺されるのに行き合わせ恨みの渡しを依頼される惣太。涼みの遊びと洒落こむ札差たちを始末。

ロケ地
・呉服屋の女房がまた交換会に来いと迫られる屋形船、広沢池東岸
・交換会見学のあと惣太たちが呉服屋夫婦の鬼気迫る喧嘩を見る、中ノ島橋
・忍に健康証明書かせたあとの夫婦に事情を聞く、大覚寺護摩堂前。
・出陣の神輿小屋の前に映る宮、北野天満宮拝殿裏。
*夜毎悪夢に魘されるお沢の姿が描かれ布石を打つ。


第3話「大元締の前で渡します」1983.7.22

 辛い記憶を取り戻してしまうお沢の話と、上方からさらわれた女の怨嗟を晴らすべく出てくる大元締の依頼が重ねて語られ、仕事をお沢に見られたことでの始末が描かれる一話。西崎みどりがこうした形でチーム入りするのは仕舞人と同様。

ロケ地
・町を彷徨うお沢がかつての朋輩に逢い聞いた「番町」から記憶がフラッシュバックし来てしまう屋敷街、相国寺参道(バックに庫裏の煙取りが映る)。人さらいに拐されてしまう、鐘楼
*掟の解除に必死で金儲けの殺し屋を探す大吉がけなげ。実は殺し屋は元締の影だったという設定もなかなか。


第4話「花火の夜に渡します」1983.7.29

 花火を恐れ、誰かが見ていると怯える沢、不安定な心情が描かれる。しかし幻想ではなく危機が迫る。花火の夜拉致される沢、背景には花火師・玉屋の職人の主家乗っ取りの陰謀。沢は奉公先でその職人・与吉が火薬を爆発させるのを目撃していたのだった。
またここに玉屋とライバルの鍵屋の娘と息子が惚れあっているというロミジュリ話が挿まれ、陰謀の果て紅蓮の炎に包まれる鍵屋の屋内で二人は焼死。直前に惣太に託された渡し料、沢は初めてのそれを押し戴き渡しに参加。事後、忍に大吉と本当の夫婦になれたような気がすると告げる沢、手付きはなかなかだった。

ロケ地
・惣太に不安を訴え渡し人の掟を説かれる沢、北野天満宮摂社。その後やはり視線に怯える沢、本殿裏。
・花火見物の橋および花火設営の川べり、木津川流れ橋と河原。大吉の出陣シーンにも橋上を使用。


第5話「矢切の渡しで渡します」1983.8.5

 家出娘が江戸へ行くのに必ず通らねばならぬ矢切の渡し、きっちりチンピラに引っ掛かる秩父から出て来た宿無し娘たち。女郎に仕立てるため飲まされたヤクで一人はオーバードーズで死亡、残る一人は逃げ出し忍のもとに保護されるも飛び出してしまい、結局捕まる。大吉がポン引きに十五六のいい女がと聞き、確かめに行った時には既に少女はいっぱしの女郎に仕立て上げられていた。その後少女は入水を企て付いていたチンピラに刺されてしまう。その直前銀平を通じお沢に託された渡し人への依頼状と小銭。背後にいた抜け荷で麻薬を扱う岡っ引と回船問屋に改役を矢切の渡しに浮かべた屋形船に襲う渡しチーム。

ロケ地
・矢切の渡し、広沢池東岸
・お沢が自らを囮にチンピラを誘い出す、今宮神社稲荷社。
*大吉のダブルレントゲン、惣太の水中からの殺しが見られる。


第6話「精霊流しに渡します」1983.8.12

 惣太が美人局にかかったことから当のお甲・音松夫婦の家へ乗り込むお直、そこで彼らの事情を聞いてしまい同情しきり。しかし音松はヤクザの一家に入ってしまい、抜き差しならぬ深間にはまってゆく。親分にいいところを見せようと張り切る音松だが、美人局のセレクト誤り相手は彫り物したヤクザで返り討ち。お直の説得などあり足を洗おうとした夫婦は一家とグルの町方に仲間割れの喧嘩を装い始末されてしまう。二人の死体の前で殺されたと口走るお直にヤクザの手が伸び、お甲が忍に預けた小銭が渡し料として置かれる。

ロケ地
・美人局失敗し大川に放られるお甲、中ノ島橋堰堤上。
・お直とお沢がお甲と音松の燈籠流しにゆく水辺が渡し場所、広沢池東岸
*大吉の渡しの際、始末される相手が「痛い痛い痛い」は初出?


第7話「お化け屋敷で渡します」1983.8.19

 両国のお化け屋敷で失踪するお直の幼馴染み・お妙。夫の伊助は半狂乱で探し回るが杳として知れず。小屋の座頭も知らぬと言い、調べに来た役人も自ら消えたものと決めつける。この小屋がとんだ食わせ物で座頭の妹は大奥のお局、役者買いに飽きたその局の慰み者を供給するほかさらった女を女郎屋に売り飛ばすという悪行を繰り返していた。そのうち女郎屋に売られたお妙は耐え切れず自ら縊れ、その死を噂で聞いた伊助は小屋に乱入し出刃を振り回すが敢無く返り討ちに遭い井戸に投げ込まれてしまう。そして伊助から惣太に託されていた金が渡し料として置かれる。

ロケ地
・小屋から運び出された「男」入りの長持がお局の待つ屋形船に運ばれる、嵐山公園中州側湛水域
*お化け屋敷へ渡しに入る際三人共にお沢のヘルプで仕掛ける。西崎みどりの演技が光るが、破れ提灯被って真面目な顔のショットが笑える。


第8話「祭り囃子で渡します」1983.9.2

 渡し人たちに罠が仕掛けられる一話。以前に惣太が渡しを請け負ったことのある薄幸そうな女が再度の渡しを依頼するが、これが盗賊・暗闇の喜平次の仕込み、女の肌についていた折檻されたと称する傷はSM趣味でついたもの。喜平次の目的は渡し人に殺された兄の仇討ちと、盗みの罪を彼らに着せること。女が渡し料として託した櫛は喜平次が初仕事の際金と一緒に小間物屋から奪ったもので、これが人の手から手へ渡る紆余曲折が話の柱となる。

ロケ地
・忍が大石転がされ狙われる石段が不明。
・喜平次に襲われた小間物屋の生き残りの娘が殺され川に放り込まれる、中ノ島橋


第9話「無縁墓地で渡します」1983.9.9

 スパルタ教育の私塾・赤松道場、武家の親たちは跡取りの鍛錬と競って息子を送り込む。塾長と密通の旗本・萩原の後妻は腹を痛めた実子に跡を継がせるため道場へ長男を送り込み謀殺させる。さすがに息子の死に不審を抱いた萩原は奉行所に訴えようとするがこれも密殺されてしまう。関わった萩原の息子に香華を手向けようと来ていた大吉に、瀕死の萩原から渡し料が託される。

ロケ地
・赤松道場の鍛錬の川、罧原堤下桂川


第10話「湯女風呂で渡します」1989.9.16

 上方の元締から入った「渡し」のターゲットは大吉の幼馴染だった。調べてから、と猶予を願い出る大吉だが、迫る日数にいらつきお沢をスパイと思い込んだりする。しかし忍が診ていた患者の息子夫婦が借金のためその男の嬲り者になりのちに心中、ケジメを迫られ渡し料は置かれる。
お沢との間に交わされる渡し人としての立場と夫婦の情と、極限の果ての信頼が再確認される一幕が描かれる。

ロケ地
・幼馴染の仙蔵を訪ねたあと悩み立ち尽くす大吉、大覚寺護摩堂
・仙蔵を再訪したあと上方の使いに掟破りを戒められ脅される大吉、大沢池北西畔
*仙蔵の用心棒の浪人に福本先生、台詞いっぱいあり。しかし松竹作品ゆえか「のけぞり」は無し、至って渋い剣客を演じる。


第11話「浮世絵の舞台で渡します」1983.9.23

 得心のゆく画を描きたいと精進する絵師、それをけなげに支える妻。惣太らと同じ貧乏長屋に住み、ささやかに生きる二人に変態目付夫婦の魔手が忍び寄る。絵師がむかし勉強のためにと描いた春画「色暦」を職権乱用し入手する目付だが、八月の欠落が惜しく絵師に描かせる運びとなり、目付に輪をかけて好色な奥方が鬼くさい仕掛けを思いつく。それは絵師の妻をモデルとすることであった。
描きあげたあと妻に気付く絵師、絵を返せと迫り妻の目の前で斬られてしまう。妻は夫の枕頭で渡し人への依頼状を書き縊死。文は発見者の惣太の手にわたり、渡し料が置かれる。

ロケ地
・絵師がスケッチに出る水辺、大覚寺大沢池畔。
・色暦の作者見つけたと語る目付の用を仰せつかる与力と徒歩目付、大覚寺参道石橋上。


第12話「二人がかりで渡します」1983.10.7

 忍の手術で死の淵から生還した大野屋だが、身代を狙う弟夫婦に謀殺されてしまう。この際両親の殺害現場を目撃した幼い娘は失語症に陥り、その後これも密殺され、弟夫婦に疑いを持っていた番頭は奸計に陥ち罪に落とされる。引かれてゆく際惣太に投げた視線を依頼とし、大野屋夫婦が治療代とは別に置いていった心尽くしの金子が渡し料となる。

ロケ地
・黒幕の松井忠直が家老を務める津山藩下屋敷、大覚寺大門
・津山藩主催の野試合が行われる森、下鴨神社糺の森馬場(幔幕が巡らされる)
*タイトルは渡す相手の一人・津山藩士の剣客が示現流の強者で、惣太・大吉二人で渡すことから。


第13話「秋雨の中で渡します」1983.10.14

 大奥へ上がることとなった大黒屋の娘、これと関係のあった男が次々と消される。忍の患者で、やっと子を授かったと喜んでいた夫婦も惨殺される。
相手が大奥と知りつつ渡しを受けるチーム、事後散ることを期して大黒屋親子に仕掛ける。
その帰途、忍の前に大奥から依頼を受けて男たちを始末した外道の殺し屋が立ち塞がる。その男はかつて忍の恋人だった医師、難病克服の資金作りと己を正当化する男に一人立ち向かう忍、その夜のうちにチームは江戸を去り「けもの狩りに出会う道」へ。
道連れにできず愛妻を捨て置く惣太、夫も隣家の友人夫婦も雇い主の忍も消え夢だと泣くお直が哀れ。

ロケ地
・冒頭、将軍の行列、谷山林道
・大吉の仕事場、中間の死体流れ着く、罧原堤下汀。
・惣太と女房が願掛けの祠、北野天満宮本殿裏祠。
・鳴滝忍が殺し屋・玄定を見る、永観堂?
・チーム解散後大吉とお沢がゆく街道筋、落合崖下河口部。街道筋、江戸の方を振り返る惣太、谷山林道流れ橋


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