時代劇ロケ地探訪 芦浦観音寺

九世詮舜絵姿・琵琶湖博物館展示 草津と守山を境する小川のほとりに、遠目には小山のように見えるお寺がある。まだ学校にも上がらぬ頃、祖母の里帰りについてゆき従兄弟らと遊んだ折、田んぼの向こうに見える森を、あれは何と問うと「おやしき」と答が返ってきた。長じてのちそれは寺と知ったが、お屋敷という表現には別の意味があった。
寺の開基は上代に遡るが、栄えたのは戦国の世、天下統一に向け激しく遷りゆく時代にあって密接に政治に関与し、湖上交通の要たる船奉行を仰せつかったのがこの寺なのだった。ために寺のまわりには濠が巡らされ石垣が築かれ、あたかも城郭の如き外観を持つ。従兄弟らがお屋敷と言ったのは、そういうことだった。
タイトルは丸子船イメージ
上の絵姿は秀吉に船奉行を任命された九世・詮舜住職

 一見お城という外観は、やはりそれなりの建物に擬えられる。
必殺仕舞人第一話「恨みが呼んでる佐渡おけさ」では、佐渡奉行所として使われた。
鎌倉本然寺の老尼僧に裏の仕事を依頼された坂東京山は、受けると了承していない段階でターゲットを見に佐渡へ赴く。そこで会った「的」の奉行所与力は、憎んでも飽き足らぬ「昔の男」、彼女を出世の道具に利用し生まれて間もない赤子を死に至らしめた非道の輩だった。そして男が今も彼女にしたのと同じ手口で女を不幸に追いやるのを見て、京山は裏稼業に立ち戻る決心をする。このお話では、京山が奉行所を訪ねる場面に石垣越しの門が使われ、細部も映り込んでいる。門前にあしらわれた高札が傑作で、仕業人の赤井剣之介や、作州浪人・楢井俊平の手配書が貼られているのである。
必殺シリーズの一つの顔ともなった勇次を主人公に据えた映画必殺!三味線屋勇次では、事件のホットスポットとなる、回春薬で人を惑わす悪の巣窟の診療所として、門周辺が使われた。
参道から 石垣越しに門
 もちろん、お城として使われる例もある。大名家の奥向きを「大奥」ふうに描いたオムニバスドラマ徳川おんな絵巻の、奥州棚倉藩の項「雪サこんこん」と「さいはての花開く」で、あおい輝彦演じる若い殿様が左遷されるお城・棚倉城としてここが出てくる。時は田沼時代、青い正義漢の松平武元は遠州掛川から減封のうえ、誰もが嫌がる僻地へお国替えとなる。雪深い地に押し込められた彼は怏々として楽しまぬ日を送るが、自棄を起こして野駆けに出た折思わぬ野の花を摘むこととなる。このとき手をつけた村娘が、側室「オラの方」として珍騒動を巻き起こすのが主題のコミカルなお話。
門から見返り 参道橋から濠

 徳川おんな絵巻では、城門として門が使われるほか、お話の起こりと結末に出てくる奇譚に濠が使われる。棚倉の城主が変わるとき、濠のヌシの大亀が姿を現すと土地の者は言い伝えていて、武元の左遷が決まったときも、松平定信によって呼び戻されるときも、濠にゴボゴボと怪しの泡が立ち昇りヌシの亀が現れるのだが、そのさまが参道の橋から見た濠を使って演出されている。
武元がオラの方とともにこの地に骨を埋めると決心したそのとき濠からヌシが出て、川口晶演じるオラの方は、運命を悟り悲嘆にくれるのだった。

滋賀県草津市芦浦町


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