時代劇ロケ地探訪 東寺

 東寺は京でもひときわ古い寺で、平安京造営時に造られた官寺。都は長安に倣って設計されたので、東西二寺の「鴻臚寺」が設けられた。時を経て都の中心は東遷し西寺は失われたが、東寺は今も創建時の位置にある。正式名は教王護国寺といい、弘法大師空海により鎮護国家の密教道場とされた。大師が建立した講堂の内陣には立体曼荼羅が展開され、迫力ある密教仏が配置されている。


南大門 R1の歩道橋から

 「京都の記号」は様々、金閣銀閣に清水寺等の観光名所のほか舞妓さんなど、キャラクター要素の強いこれらと些か感覚の異なる記号もあって、例えば東京からの帰りに新幹線から見える京都タワーは「京に帰ってきた」安堵感をもたらすシンボルである。ドライバーにはまた別の視点があり、一号線を北上して入洛する際に、九条通に突き当たり京阪国道口交差点を右折すると目に飛び込んでくる東寺の塔は、「京にやって来た」ことを実感させる記号となる。その東寺が、時代劇においても京都を表す記号として登場する。

南濠越しに南大門と塔

 境内南側には濠が巡らされている。濠端の歩道を隔てて国道一号線が通じる賑やかなところだが、寺域が広大なのでアングルを工夫すれば余計なものは映り込まない。
上写真の、濠をナメて南大門と塔を望む図は、このアングルそのままの絵がいろんな時代劇で京都を表す記号として使われている。この絵に「京都」とテロップを入れただけで、京に舞台が変わったことにしているドラマもある。

塔 直下から 瓢箪池に影を落とす塔

 都に塔は数あれど、単独で京の記号となる塔は二つ、八坂の塔と東寺の塔。
2004年の大河ドラマ・新選組!では、オープニングに様々な京の風景が登場する。伏見稲荷の千本鳥居を通ってお参りする京娘や、神護寺金堂下の石段を駆け上がる新選組隊士などとともに、東寺の塔がイメージとして使われ、画面下手を隊士の幻影が駆けてゆく。撮影は上写真左のような強烈な逆光で、ゴーストを効果に用いてあった。

茶所と塔 講堂、金堂

 塔が見える境内も使われる。芝地や池越しの絵が多く、上写真左のような「いかにも京都」は、実のところあまり見ない。設定ははっきり東寺とされているもののほか、「京都の記号」も多い。
田中邦衛の岡っ引どぶ「京洛殺人事件」では、塔のほか上写真右の講堂と金堂の甍が使われている。

金堂基壇越しに塔 金堂甍の影
講堂・南面 金堂・北面

 クライマックスに鞍馬天狗が近藤勇と対峙する定番の名場面、約束の場所は大佛次郎の原作に東寺と書かれている。アラカンの鞍馬天狗で美空ひばりが杉作を演じた、松竹の鞍馬天狗 角兵衛獅子(1951)では、その場面が実際に東寺で撮られた。塔を背に嵐寛寿郎、金堂基壇に月形龍之介が立つ。塔周辺は、この映画が撮られた当時と比べるとずいぶんこざっぱり整備されている。
松平健主演の鞍馬天狗(2001)でも、中村敦夫演じる新選組局長・近藤勇が天狗を呼び出す当の東寺が、金堂・講堂間で撮られた。そのシーン、果し状を出した近藤は上写真上段左の、金堂基壇に現れる。彼が見やる講堂基壇には天狗の姿、それぞれ階を降り対峙するのは両堂の間、「参ろうか」「ご遠慮なく」と言い放ち刀を抜く二人の間に、塔が来る。この際抜きつれる二人を俯瞰したショットもあり、上写真上段右のように甍の影が映り込んでいる。このあとの立ち回りは、南禅寺へスイッチする。

食堂 本坊脇・南望

 先述の鞍馬天狗 角兵衛獅子の、杉作少年が天狗のおじちゃんを初めて見るくだりも東寺境内。杉作は角兵衛獅子の営業中で、食堂(じきどう)付近に露店や芝居小屋が派手にあしらわれている。上の食堂の写真の左端に映っているのは夜叉神堂、このうしろに幔幕がめぐらされていた。人々で賑わう市中の情景は、走りこんできただんだら染めの一団により平穏を破られる。杉作を突き飛ばした新選組隊士たちは裏切者の粛清をはじめるのだが、とどめをさそうとするところへずどんと銃声、鞍馬天狗の登場である。天狗は駕籠からおり、傷ついた隊士を中に入れ上写真右の楠の疎林のほうへ立ち去る。いきり立つ新選組は、天狗から渡されたピストルで、お供の黒姫の吉兵衛がぺらぺらと口上を述べつつ制している。

 境外北側には蓮池がある。北大門を出て蓮池に架かる橋を渡ると右手に観智院、その南門前には大元帥明王堂があり、ここにもある橋を南に渡ると弁財天堂。二つのお堂の脇の橋が、鬼平犯科帳のひとこまに使われた。
左写真は弁財天堂前から北を見たもの。弁天さんのすぐ北に太元堂、遠景の方形のお堂は観智院。

蓮池 橋越しに弁財天堂
橋たもとから南望

 鬼平犯科帳「麻布ねずみ坂」は、香具師の妾といい仲になるも露見し捩じ込まれるが、五百両作れば売ってやると言われ、江戸へ出てせっせと大金を稼ぐ指圧師の話。その指圧師・宗仙が運命の女と出会った「東寺」の風景が、本物を使って撮られた。経蔵跡の庭から塔を望む景色のほか、上写真下段の橋が使われていて、市民や雲水があしらわれている。
同じく鬼平の「鬼火」では江戸市中設定で、大身旗本の家を継いだ、会えぬわが子を垣間見てきた母が寄りかかってさめざめと泣く橋である。
いずれも背景に塔が映り込む。「鬼火」では、梶芽衣子演じる密偵・おまさの背後に一際大きく塔が来て、迫力ある画面になっている。

 →東寺ロケ使用例一覧

京都市南区九条町


・ロケ地探訪目次 ・ロケ地探訪テキスト目次 ・ロケ地資料 ・時代劇拝見日記
・時代劇の風景トップ ・サイトトップ