時代劇ロケ地探訪 和歌山城

 和歌山城は、太閤秀吉の紀州攻めのあと、その弟・秀長により築かれたのがはじまりで、関ヶ原のあと入封した浅野氏による改修を経て、御三家のひとつ・紀州藩の居城となった。
江戸期に何度か焼けたほか、太平洋戦争末期の空襲で城下町ごと焼失、現在の天守はコンクリート製の復興天守。
姫路城や彦根城が江戸城その他に擬えられるのとは異なり、ほぼ和歌山城として登場する。

大天守
天守二の門 大天守から 手前は小天守
天守二の門内側 直下から見た大天守

 天守は三層、尾張や大坂のそれと比べると小体だが、装飾性に富む美しい造り。小天守が付属し、各櫓を連結して廓とする。
天守からは和歌山の街が一望できるほか、城の北でゆったりと海に注ぎゆく紀ノ川の河口も良い眺め。拝観口前から大天守を見上げた、上写真上段のアングルがよく使われる。三年坂通り越しに見た現代の風景を使った例もある。

 和歌山城が出てくるドラマは、紀州藩がらみのものがほとんど。大奥もののほか、紀州出身の将軍が活躍する暴れん坊将軍でよく使われる。
たいていのドラマでは天守のみのイメージ映像で、お城内部のロケは姫路城だったり大覚寺だったりするが、役者さんが入っての大がかりな現地ロケもある。

 暴れん坊将軍 II 「男の約束!紀州の海鳴り」は、吉宗が将軍に就任したあと紀州藩主になった若い殿様が、出来過ぎの前任者への妬心から道を踏みはずしかけるお話。殿様を籠絡した怪しの兵法者は、はるばる江戸から乗り込んできた上様に成敗されるが、この立ち回りが大天守下の郭内で繰り広げられる。小沢象演じる悪党は、天守二の門内側の石段で上様にばっさりやられる。このときの上様の台詞が「虎伏城の名に因み、暴れ者の虎を一匹成敗」。

西の丸から 左/天守、右/乾櫓
堀と天守 天守(北側)

 大天守直下からのアングルのほか、南側から見た遠景が使われることもある。これは、けやき大通りの市役所前から望まれる、和歌山市民の目に親しい風景。
この眺めは、和歌山城が山城であることを実感させる。この山は形状から虎伏山と呼ばれ、城の別称ともなっている。

 先に述べた暴れん坊将軍 II 「男の約束!紀州の海鳴り」では、このアングルをたっぷり映し築城の経緯を語る。このアングルもイメージ映像なことが多いが、根来にいる我が子に会うため過酷な旅を続ける哀しい女を描いた逃亡者おりんでは、やっと紀州入りしたおりんが西の丸付近からお城を眺めている例がある。

岡口門 石垣と天守

 岡口門は、いくつか残る門のひとつで重文だが、原初の姿は失われている。このほか石垣も各時代に改修が重ねられていて、戦国期の緑泥片岩を野面積みした石垣がぽつぽつと残り、城の経てきた歴史がまざまざと見える。

 暴れん坊将軍 III 「将軍が消えた!?吉宗暗殺の渦巻く紀州和歌山」は、尾張の陰謀で上様の偽者が仕立てられ危機一髪のサスペンス。その偽将軍が和歌山城入りする門が、岡口門。暴れん坊将軍では他にも何度か使われていて、馬でやって来た上様が「吉宗じゃ、通るぞ」と言い捨てて罷り通るシーンもある。

 岡口門には、和歌山城設定以外の珍しい使用例がある。豊川悦司が隻眼隻手の素浪人を演じた映画丹下左膳 百万両の壺では、柳生藩の城として岡口門越しに天守を望む絵が使われている。柳生藩は一万石だしお城は陣屋なので、いくらなんでも御三家のお城は似合わないと思うが、時代劇に出てくるお城はとかく妙なことが多いので「城を表す記号」としてはセーフかとも思う。

西の丸庭園 鳶魚閣
切石橋と鳶魚閣 紅葉渓橋

 西の丸庭園は、内堀に谷水を落とす形で作られた起伏に富む庭。滝を受ける池には大石を配し、大海を堀で表現した雄渾な大名庭園。水に張り出した釣殿の鳶魚閣は近年復されたもので、お庭に優雅な雰囲気をもたらしている。

 天守の項で述べた暴れん坊将軍 II 「男の約束!紀州の海鳴り」では、側用人の加納の爺さま(有島一郎)が紀州藩主・宗直と会談するのが鳶魚閣。
第3シリーズの「将軍が消えた!?吉宗暗殺の渦巻く紀州和歌山」では、偽の吉宗が案内される和歌山城中のお庭で、導入に紅葉渓橋を使い、下の切石橋付近にいるお庭番・左源太に合図をする側用人・田野倉の爺さま(船越英二)の姿がある。この場面では、立体的な庭の構成が活かされている。中尾彬演じる黒幕の尾張宗春が庭を闊歩する偽者を見てほくそ笑む茶室には、鳶魚閣を使ってある。

和歌山市一番丁

*和歌山城ロケ使用例は時代劇ロケ地資料/和歌山県
*参考文献 「よみがえる日本の城 1」(2004年学習研究社刊)


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