時代劇ロケ地探訪 大雲寺

 平安期創始になる古寺・大雲寺は、行基作と伝わる十一面観音を本尊とし、そのかみは洛北屈指の大寺だった。昭和の終り頃本堂を焼失し、現在は石座神社の東に移っておられるが、霊験あらたかな湧水は元の場所にある。その霊泉・観音水は、心の病ほか首から上の悪いところ全てに効くとして古来より崇敬を受け、ここへ参籠した人々の宿泊施設が、現在付近一帯に建つ療養施設のはじまり。古い歴史を持つ寺ゆえ、各時代の文学作品にも登場する。西鶴の草紙ほか、源氏物語で光源氏が幼い紫の上と出会う北山の御寺のモデルはここともいう。

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不動の滝

 不動の滝は、病平癒を願う人々が沐浴する行場。滝下へおりる段がついている。滝は常に落ちていて、敷石に当って飛沫を上げている(タイトルの写真)

 大川橋蔵の銭形平次「命を売った男」は、博打好きの男二人の奇縁を軸にした人情話。女房を叩き売っても賭け事に注ぎ込むたちの小料理屋の主・伊兵ヱは、旅先の賭場で会った同じく博打うちの若者・与之吉に、やっと工面してきた虎の子を供出。与之吉にツキが回り望外の大金を得て二人は江戸へ戻ってくるが、別れた直後伊兵ヱが殺され与之吉に疑いがかかってしまう。
伊兵ヱの死体が見つかる「石座神社」がここで撮られた。伊兵ヱは滝降り口に立つ右方の燈籠の前に倒れている。見分の八五郎の背後には、滝の樋が鮮明に映り込んでいる。遠巻きに見る民衆や、駆けつけてくる三輪の万七らの立ち位置を見ると、撮影当時は今と違い起伏があったことが判る。平次親分が再度現場を見に来た際には、滝へおりるステップをうまく使い画面に奥行きをもたらしている。このとき石垣で見つかった財布は、真犯人を突き止めるきっかけとなる。

降り口

 伊兵ヱが与之吉と別れた茶店は、下写真の石段下で撮られたものと思われる。推測にとどまるのは、このまわりがすっかり変わってしまっていて、ドラマに見える石段の構成も今と微妙に異なるためである。石段を上がったところに映っていたお堂らしきものは今はなく、左手には大きな病院が建っているし、石段下には「茶店」脇に映っていた石垣が見当たらないなどの疑問点があるので、旧大雲寺境内にこれとよく似た石段があった可能性が残る。
ドラマでは、茶店の女将に聞き込みをする平次親分の背後に石段が来ていて、旅姿の通行人などがあしらわれている。先に述べた伊兵ヱの死体発見現場にも旅装の者が目立ったことと、伊兵ヱと与之吉は江戸入り直後別れた設定なので、場所設定は街道筋の茶店とみて差し支えないだろう。
博打うちの心情を活写したドラマだが、与之吉を亀石征一郎、彼に厳しく接するも我が身を捨てて守ろうとする父を加藤嘉が演じた、親子の情愛が主軸。

参道石段

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 不動の滝のすぐ北に、観音水がある。井は立派な屋形に覆われていて、雄渾な形の花頭窓が印象的。屋形の北は坂になっていて、陵に通じている。

観音水 (閼伽井) 屋形

 この屋形脇でもロケが行われた。作品は同じく大川橋蔵の銭形平次、浮世絵のモデルとなった女たちの連続殺傷事件が起こる「浮世絵女双六」。
殺された矢場女に懸想していた浪人を、三輪の万七親分が誰何するのが屋形脇。殺人者と決め付け迫る万七に、浪人は大刀を抜き人を斬った跡があるか確かめさせる。血曇りが無いのを見て納得する万七、浪人が去りかけるところへ銭形の親分が通りかかり呼びとめ、殺しの得物は匕首か短刀だったと脇差を改めさせるが、抜いた刀身は竹光というオチ。ここへやって来る平次親分は、陵へ通じる坂から現れる。お話の本筋とはあまり関係ないシークエンスだし、石座神社ロケのついでに撮られたっぽいが、この屋形のビジュアルは印象深い。

 大衆文学の父・長谷川伸の著作を映像化したオムニバス「長谷川伸シリーズ」の一編「道中女仁義」でもこの屋形が登場する。美空ひばり演じる渡世人のお兄哥さんに「棄てられ」自棄になり身を持ち崩した、浅丘ルリ子演じる湯女の悲劇を描くお話で、兄哥に去られ意気消沈した女が悪党に見込まれてしまう街道筋のお堂のシーンが、不動の滝前から閼伽井屋形前で撮られた。悪党は藤岡重慶で、以降女に恩を着せ美人局を強要する運び。しかも彼は愛しい兄哥の仇だったりして、結局女は兄哥を庇って凶刃に倒れるのだが、女として望まれなかった真の理由「兄哥は実は女性」という事実を知ったうえで仇討ちに協力するおのぶが、実にいじらしいのである。
このケースでも石座神社ロケと併用されているほか、今は特定困難な「石段」も出てくる。

銭形平次 第264話「命を売った男」1971/5/26
銭形平次 第456話「浮世絵女双六」1975/2/5
銭形平次視聴記
長谷川伸シリーズ「道中女仁義」1973
長谷川伸シリーズ視聴記

京都市左京区岩倉上蔵町


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