ご利益を求める人々が集う場には独特の雰囲気がある。写真なんか撮っているのが場違いな、信仰が今も生き生きと脈づいている現場だからこそ醸し出される情景が、いにしえの町角を表現するひとこまに馴染む。 林与一が希代の盗賊を演じた映画・鼠小僧次郎吉は、伝説の義賊の内面を活写した渋いお話。鼠小僧については、いまや義賊などではない実相が研究されているが、このお話での鼠は、あくどく儲けた者どもから盗んだ小判を貧しい民にばらまく正義の味方。しかし当の鼠自身は、そうした行いが真の救済になどなっていないことを重々承知の上で、弱き者のために施しを続けている。そんななか、鼠に恥をかかされた二足の草鞋が、彼の幼馴染を使って身辺に迫ろうとする。この、救済の対象でもある身内からの裏切りという皮肉なドラマが、釘抜地蔵境内で撮られた。
権力者とつるんだヤクザに脅された幼馴染の船頭・虎吉は、望外の好条件を提示されたこともあって「転び」、女房が止めるのも聞かず「次郎さん」を売ってしまう。ある日道で「表の顔」をした幼馴染と出会った虎吉は、一旦躊躇うものの「次郎さん」を追ってゆく。虎吉が鼠の姿を求めて駆け入る門が、釘抜地蔵の中門である。
門をくぐって境内に入った虎吉が鼠の姿を求めて頭をめぐらすのは上写真右の大師堂前、次いで地蔵堂正面が映る。境内にはお参りの人々が行き交い、乾いた鉦の音がかんかんと響く。虎吉は鼠の姿を求め奥へ入ってゆく。待ち構えていて幼馴染の真意を問う鼠のくだりは、地蔵堂の裏手で展開される。
地蔵堂脇を走り抜けようとした虎吉の背に、鼠が声をかける「虎ちゃん、俺はここにいるぜ」。 *鼠小僧次郎吉 三隅研次監督作品/1965.4.3大映 →視聴記 京都市上京区千本通上立売上ル花車町 |