時代劇ロケ地探訪 奈良公園

 同じ古都の京都と比べ、時代劇のロケに使われることは少ない奈良。たまに出てくるときは、現地設定のことが多い。しかし一旦画面に登場するや、千三百年の歴史を持つ古き都の貫禄ある風情が圧倒的な存在感を主張する。
古寺古社が点在し、芝地に鹿が遊び、江戸期の町家も残る奈良公園界隈は、幾たび訪れても興尽きぬ、美しい町。

 主舞台が奈良の俺は用心棒「日照り雨」では、冒頭に左右田一平演じる万平ダンナの奈良周遊が出てくる。お土産の絵葉書を見るようなこのルートがなかなか面白いので、これを辿りつつ「定番の奈良」を見てみたい。

猿沢池 写真は猿沢池南岸から興福寺五重塔を望む図。池の水面に塔上層が影を落とす絶景は、観光客が揃ってカメラを向けるお決まりの風景で、数々のドラマで「奈良の顔」として登場する。他の地に擬えて使うのはまず無理な、印象強い風景。

鷺池 写真は猿沢池の東へ公園に分け入ったところにある鷺池で、池に張り出すお堂は浮見堂。市街から離れると、鹿が身近にいるようになる。
写真は南岸から、俺は用心棒の万平ダンナもここを歩む。

飛火野 鷺池を更に東に行くと飛火野。南は高畠、北は春日大社参道という立地の広大な芝地で、中央を突っ切る御手洗川が刻む谷沿いに南京櫨の大木が聳えている。ここは登場人物が鹿と戯れる場面に使われるところで、万平ダンナも北大路欣也演じる隠密奉行も鹿に餌をねだられている。奈良が舞台の歴史ファンタジー現代劇でもメインのロケ地として使われた。

東大寺南大門 鹿は奈良公園の至るところにいて鹿せんべいをねだるが、弁当を失敬したりする図々しい個体もいる。左写真の東大寺南大門前に常駐する向きはその傾向がつよく、鹿の突進に辟易した子供が「もうイヤ帰る鹿怖いうわーん」と泣く図は、筆者の遠い昔の記憶と重なる。

春日大社参道 春日大社参道には、おちこちから寄進された灯籠が立ち並ぶ。参道にいつも鹿の姿があるのも、御祭神の威光か。
北大路欣也の隠密奉行朝比奈では、参道付近での立ち回りも撮られた。

経蔵と手向山八幡宮 春日の神域を北に行き、水谷川の谷を渡り若草山を右手に見て進むと、東大寺境内に入る。天平の名仏が居並ぶ三月堂の手前にある、宇佐から勧請された八幡神が鎮まる手向山八幡宮前でも、万平ダンナは鹿にたかられている。
写真左は経蔵、石塔の奥に見えるのが手向山八幡宮。

二月堂 三月堂の北には、崖に張り出した二月堂が建つ。「お水取り」で知られる修二会は、天平の昔から連綿と続けられてきた十一面観音悔過の修法。これが終らないと、どうも春が来た気がしない。ここも周遊のひとこまに出てくる。

大仏殿甍 二月堂のバルコニーからは、大仏殿の大屋根が見える。遠景の山は生駒山。
万平ダンナの周遊はここで終る。

興福寺 興福寺も、奈良を表す記号としてよく出てくる。京都でもそうだが、やはり「塔のある風景」は格別に印象深い。北円堂や南円堂が使われることもある。
写真は中金堂前から見た東金堂と塔。

東大寺大仏殿 奈良のシンボル・大仏さまがおさまる大仏殿も「記号」として使われることが多いが、俺は用心棒では万平ダンがちゃんと大仏殿前に立ち、毘盧遮那仏の前にもゆく。

大仏殿回廊 設定された場所でのロケを敢行した隠密奉行朝比奈では、奈良の回で、郡山藩主になりたての柳沢吉里が伊賀者の襲撃を受けるくだりで大仏殿回廊が使われた。写真はロケに使われた西側回廊(外側)

奈良町資料館 鹿の運び番を仰せつかってしまう女子高教師の下宿として外観が使われた町家があるならまちは、いまや洒落たお店が並ぶ人気スポット。身代り申もお土産に売られていたりして、元興寺界隈を古怪と感じた昔とは、隔世の感がある。

古梅院 俺は用心棒「日照り雨」で出てくる、ならまちにある老舗の墨工房・古梅園は、そのもの設定で登場する。外観のほか、万力やレールなど工房の施設が効果的に映し出される。

古梅園 1967年に撮られたものと同じ看板は、今も現地に健在。大昔のモノクロ時代劇に、今もある風景を見るのはなかなか感動的。


*奈良公園ロケ使用例はロケ地資料・奈良県


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