時代劇の風景   ロケ地探訪

法然院

 大文字の灯される如意ヶ嶽の山すそ、鹿ヶ谷(ししがたに)に法然院はある。
江戸の中ごろ、浄土宗の祖・法然ゆかりの地に建立された寺は阿弥陀仏を祀る閑静な念仏の道場。みほとけは恵心僧都の作と伝わるゆかしいもの。
広葉樹が多く繁る境内には、谷崎潤一郎や河上肇ら著名人の眠る墓もある。
*右写真は総門をくぐり緩い登りの参道から山門を遠望
参道から 参道側(南側)から
低い位置から見上げ 庭から(北側から)
 御家人斬九郎最終回「最後の死闘」では、兄の無念を晴らすべく、母も友も恋人も全て振り捨てて斬九郎が赴く下河原藩家老の待つ天正寺の門、という設定で山門が使われた。霏々と降る雪の夜、門前に立つ斬九郎、待ち構えたかのようにふわっと開く門扉がまことに印象的な使われ方をしていた。斬九郎の身を案じ雪の中を駆けつけた蔦吉がたどり着き、門扉にすがるシーンもなかなか見応えがあった。この門をくぐったあと斬九郎は茶室に招じ入れられ、決裂ののち槍ぶすまとなり長い尺をとっての大乱闘がはじまるのだが、剣戟の舞台はこの寺ではなくセット撮り。しかしどこかここのお庭に似た雰囲気だった。
暴れん坊将軍 II 「恋の宴はせつのうおじゃる」では綱吉の側室の養女で前大納言の姫が隠棲する芝権現下の御殿として、徳川風雲録 御三家の野望では天一坊事件にからむ公卿・鳥羽大納言別邸として使われた。これらは公家のムードを出すため、優美なここの門が選ばれた例。しかし「野望」のほうのお公家さんは菅貫なのであった。
乾いて候 お毒見役必殺剣では渡海屋の寮、続・三匹が斬る!「忠犬と力丸、娘十八盗っ人稼業」では松岡宿の浜松屋隠居所として使われた。これらは富裕な商人が所有する雅な別業に擬された例。嵯峨の旧中山邸と同様の使われ方である。
白砂壇
 山門をくぐると参道の両脇に方形の砂盛り、白砂壇が目に入る。折々に異なった紋様を刻まれる砂には、この日水泡と流れが描かれていた。心身引き締まる感のある道をゆくと池泉があり、山からの水を湛え木々の影を映している。
この寺はすみずみまで細やかな手入れが行き届いており、水盤に飾られた花が祈りの心を伝える。
本堂襖絵は狩野派と堂本印象、春秋二回の公開。
水盤と花 池泉
 この優美な庭は、市川雷蔵主演の映画剣鬼で使われた。
異能の「武士」斑平は、剣を学んだ師匠を斬るはめになるが、公儀隠密であるその師匠が隠れている寺がここ。殺陣もこの庭で行われる。
白砂壇や水盤も映っており、スクリーンでも上写真と同様生花が活けられていて効果を上げている。
白砂壇と山門 境内の落ち椿
 訪問時は桜も散りきったあと、気の早い菖蒲が咲きだす候だったが法然院境内の苔には名残の落ち椿がちらほら。この寺は椿の名所でもあるのだが、死闘の末瞑目し座り込む斬九郎を発見する蔦吉の目前、雪上にぽとっと落ちる赤い椿が鮮烈だったので、印象が重なり感慨深かった。
京都市左京区鹿ヶ谷御所ノ段町

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