時代劇ロケ地探訪 清水寺

 音羽山清水寺は奈良期の開基になる古寺、開山の謂れは名の通りの「清水」。その名水が落ちる音羽の滝も懸崖の舞台も、常時観光客で溢れかえる名所中の名所。
時代劇には、ほぼ現地設定で登場する。全景や三重塔が京都を表す記号になるほか、実際に各所でロケを行った例もある。

子安塔から見た清水寺全景

 上写真のアングルが、清水寺使用例ではいちばん多い。金閣銀閣や御所・二条城などと同じく、舞台が京都であることを示す記号としてアイキャッチに使われる。役者さんの入らないイメージ映像なことが多い。
この眺めは境内南の子安塔から得られるのだが、昔より木が大きく育っているので、いま見ようとすると木が葉を落としきった真冬ぐらいしかない。

仁王門 三重塔

 「記号」としての使われ方は、役者さんを入れてのときも同様。俺は用心棒「真葛ヶ原にて待つ」では、妹を訪ねてきた田舎の小役人が京見物に出る一幕に使われている。桂小五郎と容貌が酷似していたため斬られてしまう、舟橋元演じるその兄さんは、仁王門前の石段を登ってゆく。
上写真左で仁王門のうしろに映っているのは西門越しの三重塔。三重塔のアップも清水寺=京のシンボルとして出てくる。

子安塔から見た舞台 阿弥陀堂から見た舞台

 本堂の前に張り出す「舞台」は、諺に使われるほど寺内でもことさら著名な名所。音羽の水が落ちる錦雲渓の谷に張り出した懸崖が迫力。
ここも「記号」としてよく出てくるが、現地設定のお芝居でも登場する。
白塗り時代の勝新太郎が天一坊を演じた映画・天下を狙う美少年では、江戸へ登る旅の途にある天一坊が清水寺に詣でで僧に説明を受けるくだりに、上写真右のアングルが使われた。この映画では阿弥陀堂内部からの撮影がなされている。

舞台見上げ 音羽滝前茶屋屋根越し舞台見上げ
舞台下の道 舞台脇石段と音羽の滝

 舞台は、錦雲渓の渓谷に張り出す。谷との間には石畳の道が一本通じていて、ここは中村錦之助が戦国の風雲児を演じた映画・尻啖え孫市に登場する。
雑賀衆の若頭領・孫市が、織田方に与するきっかけとなった清水寺境内でのできごとが、当の清水さん境内で撮られた。信長の妹でお市の方より美しいという女性が清水寺へ物詣での折、孫市が彼女を見初める。美女は老女を供に上写真下段左の道をやって来て、音羽の滝の方へ石段を下りてくる。足がアップになり強調されるが、女に関して奇妙な性癖を持つ孫市は足だけ見てとびきりの女と判断するのである。
このシーンに先立って舞台下の懸崖構造が映り、上写真上段右とほぼ同アングルで見上げの絵が入る。原作では孫市は茶屋の簀越しに女を見る設定、映画では音羽の滝前あたりに立っていて、八咫烏の紋入りの陣羽織を着た後ろ姿。このシーンは戦に赴く馬上の孫市の回想というかたちで出てくる。

音羽の滝 舞台から見下ろし 音羽の滝
音羽の滝 南辺 音羽滝南方の茶店
滝落ち口と舞台東の石段 落ち口の飛び石

 音羽の滝も清水寺内の名所のひとつ、多くの人が柄杓で滝水を受ける光景が見られる。
ここももろに現地設定で登場する。新選組血風録「脱走」は、山南敬助脱走事件が主体の重苦しい話だが、原作の「沖田総司の恋」から引いたエピソードを挿んである。沖田が淡い恋心を抱く医者の娘と行く清水さんのシーンが、本物を使って撮られている。娘は茶を点てる水を汲みに八の日に音羽の滝へやって来る設定で、三重塔と舞台がまず出て、舞台からカメラがパンして滝に導かれる。娘が水を汲むのは、いま観光客がひしめいて柄杓を差し出す屋形側からでなく、落ち口の水場。そのさまを眺めながら沖田は殺伐たる自らの生き様と引き比べ、天を仰ぎ瞑目する。
このあと二人が入る掛茶屋は上写真中段左の「順路」付近に葭簀張りの茶店をあしらってある。当時の施設をそのまま用いたものかも知れない。餅を指す「あも」が京の幼児語なエピソードも出てくる。
娘は沖田に次の八の日を約するが、沖田はやって来ず、娘が持ってきた手桶が空しく滝落ち口傍の石畳に置かれている映像が出る。桶の柄には文が結び付けられている。このとき沖田は、脱走した山南に追いつき、大津の宿にいるのだった。
再び滝が出てくるのはラストシーン、山南の介錯をつとめた沖田が滝傍に立ち尽くす姿が撮られている。総長脱走・切腹という衝撃的な事件のあとも変わらず続く隊士の日常に勇壮な主題歌が被り、沖田がいる滝の落水がアップになる。
原作では、沖田の淡い恋が気はいいががさつな近藤たちによって終わってしまう機微を描くが、ドラマでは山南事件の喪失感を重ねてより重苦しい絵になっている。

子安塔

 子安塔は、舞台と錦雲渓を隔てた南の丘に建つ檜皮の三重塔。子安観音という千手観音を祀る塔で、寺伝によると元は仁王門付近にあったという。
ここは新選組血風録「槍は宝蔵院流」で、阿諛追従の徒が粛清される清水坂として使われた。近藤局長に阿る七番隊隊長・谷三十郎の話で、原作は板倉候の御落胤という触れ込みの己の養子を近藤に差し出して地位保全をはかった男が、倅のとんだ怯懦で失脚するシンプルな筋立てだが、ドラマでは見た目にも判りやすい谷三十郎の悪行が描かれている。谷に貶められた経緯から討手は斎藤一、清水坂の妾のもとから帰る谷の前に立ちはだかり、谷の得意の槍を持たせ「勝負」の運び。その立ち回りが、子安塔脇で撮られた。

塔脇 南望 塔脇 北望

 ロケ現場は上写真の、塔の西側。撮影当時には写真にある鉄柵は無かった。また、いまは木が繁ってはっきりと映らない堂塔が背景に来ている。
三隅研次監督の映画舞妓と暗殺者では鳥辺野墓地がロケに使われているが、墓地の向こうに見える塔は子安塔である。

→清水寺ロケ使用例一覧

参考文献
・「尻啖え孫市」 司馬遼太郎著 講談社文庫
・「新選組血風録」 司馬遼太郎著 角川文庫

京都府京都市東山区清水


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