時代劇ロケ地探訪 白沙村荘

東今出川通から見た外観 白沙村荘(はくさそんそう)は、大正から昭和にかけて活躍した日本画の大家・橋本関雪のアトリエ。画室や茶室のほか画伯自身が縄張りした庭園も残され、記念館として公開されている。
永年ここに住み暮らした関雪、その趣味の行き届いた佇まいは隅々までゆかしく、漢籍の素養を反映して付けられた各所の名称も味わい深い。
左写真は銀閣寺道に面した外観。

存古楼 存古楼内部から池泉を見る

 存古楼(ぞんころう)は芙蓉池の西に建つ、関雪が大作を描くのに使った大きなアトリエ。中に入らせて貰えるので、画伯が描かれた作品を思い浮かべてあれこれ偲ぶことができる。

国東塔 薮の羅漢

 敷地内には、池泉や建物のほかたくさんの石造物が点在する。上写真はほんの一例、国東塔は静御前の供養塔と伝わる宝塔、薮の羅漢は竹林林床に配された石仏群で四季折々に美しい。

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 白沙村荘でロケに使われるのは、倚翠亭(いすいてい)が圧倒的に多い。見学者は中に入れないが、ロケの折は贅沢にも座敷を使う。そこからは池を挟んで向かいの問魚亭や、飛び石や石造物が望まれ、画面に趣を添える。また、問魚亭越しに倚翠亭を見るアングルも多用され、絶大な効果を上げている。登場人物は座敷にいたり、前庭に立ったり飛び石に佇んだりと、さまざまなかたちで用いられる。
ここが使われる際の設定はたいていご大身の茶室や庵で、江戸城内なこともある。この園地は、それらに擬えられるに相応しい風格を有している。

倚翠亭 東面 倚翠亭 北から
問魚亭越しに見た倚翠亭 問魚亭円窓越しに見た倚翠亭

 松平右近事件帳「お犬様罷り通る」では、政治に容喙する闇将軍を斬ると右近が宣言する老中屋敷の庭。問魚亭から見たり、逆にそれを望む絵も出てくる。
長七郎江戸日記「風流献上鷹始末」では、長さんが説得に赴く老中屋敷の一角。長さんは池中の飛び石にいたり、縁先にいたりする。
続続・三匹が斬る!「帰って来た三匹!九州路、取るは天下かはたまた夢か」では、実は黒田藩主だった侍が、助けてくれた「殿様」矢坂平四郎を招く茶亭。
はんなり菊太郎「兄弟」では、恩人のため菊さんが掛け合いにゆく留守居役の屋敷。葭簀があしらわれている。
大奥 華の乱「お犬様」では、柳沢吉保を呼びつけて吉里の出生に疑問が持たれていると密告する御台所の場面がここ。建具が取り払われ、御簾があしらわれている。
逃亡者おりんの最終話「江戸城大乱!明かされる陰謀」では、全てが終わったあと将軍・家重がおりんとその母に詫びる江戸城内の東屋。普通の娘の姿をしたおりんが、なかなかに可愛い場面である。
変わったところでは戦国自衛隊 関ヶ原の戦いで、津川雅彦演じる徳川家康が自衛隊の無力化を指示する場面などもある。戦車や装甲車を襲うことになる女忍者は、前庭に控え命令を聞く。

倚翠亭前の飛び石 倚翠亭北側の池畔

 倚翠亭の前庭から続く飛び石は、池のそれに導かれる趣向で手すりも優雅に竹。蹲が水中にあるのもユニーク。
バルコニーの北には十三重石塔が立つ。夜桜お染では、お染が諸国探索方長官にスカウトされる場面が倚翠亭で、目隠しされて連れてこられたお染が通された茶室から石塔が見えている。

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 問魚亭(もんぎょてい)は、萱葺き屋根で方形。半ば池に張り出した釣殿で、丸みを帯びた開口部が独特の雰囲気。すぐ脇の草戸をくぐると池に架かる石橋で、渡ると茶室・憩寂庵(けいじゃくあん)に至る。

憩寂庵と問魚亭間の石橋 問魚亭
問魚亭南側の草戸 茶室・憩寂庵

 忠臣蔵 決断の時第三部「散る心 残る心」では、中村吉右衛門演じる大石内蔵之助が、色部又四郎に会見を申し込まれ赴く屋敷に上写真の草戸と石橋が使われている。案内者は憩寂庵のにじり口を大石に指し示し、以降はスタジオセットにスイッチする。

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 画室・存古楼の南に持仏堂のある一角へ通じる道があり、仕切りには風雅なかたちをした夕佳門が設けられている。

夕佳門
夕佳門 ロング 存古楼入口

 夜桜お染では、諸国探索方長官とお染が会う深川の料亭として夕佳門が使われていて、暖簾があしらわれている。
忠臣蔵 瑤泉院の陰謀では、夫・内匠頭の狂気を見て衝撃を受ける阿久利のくだりで出る。内匠頭は池畔で蛙をなぶり殺しにしていて、目撃した阿久利は驚きのあまり気を失いかける。内匠頭は彼女を抱え上げ、夕佳門のほうへ歩み去る。ここでの設定は築地鉄砲州の浅野家上屋敷の庭。
松平右近事件帳「忍びや哀れ」は、甲賀と伊賀の忍者の許されざる恋を描く話。くノ一が騙されて襲わされる老中の別業がここで撮られていて、夕佳門前で老僕を倒し、存古楼へどっと侵入する次第。
忠臣蔵 決断の時では屋敷を辞する大石のシーンが夕佳門前。
存古楼は、上写真下段右のアングルが、先に述べた続続・三匹が斬る!で、「倚翠亭にいる黒田藩主」が指す離れとして登場する。そこでは、「黒田藩主」が目指す新しい独立国について、商人や学者たちの活発な情報交換がなされているのだった。

→白沙村荘 ロケ使用例一覧

白沙村荘 橋本関雪記念館 京都市左京区浄土寺石橋町


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