新日吉神社は、東大路から妙法院と智積院の間を入り京女(きょうじょ)の通学路・女坂を上る横手に鎮座まします古社。御白河院が法住寺の鎮守として日吉の神を勧請したことにはじまり、今は院も併せて祀る。 いまひえさんでロケを行った例は、大川橋蔵の銭形平次が圧倒的に多い。水天宮や神田明神境内に擬えて使われる。 ■ ■ ■ ■ ■ 石畳をゆき鳥居をくぐると、色鮮やかな楼門。両翼には青緑の連子窓が連なる。楼門の南側に車の道がついていて、タイヤは石畳を踏んで境内へ入ってゆく。楼門内側には、表には無い菱格子が付いている。楼門自体はもちろん、楼門脇の路地もロケに使われる。
銭形平次「捕縄の掟」は、義賊に憧れ道を踏み外しかける弟を、その当の義賊だった兄が身をもって諌める情話。宮土尚治(現・桜木健一)演じる弟が、兄の屯する茶店がある神社へ駆け入る場面がここの楼門で、彼は勢いよく石段を駆け上がる。平次に弟を託す兄は長門裕之で、義賊になるとか博打で稼いで施しをするとかほざく弟を殴りつけて諌める。 ■ ■ ■ ■ ■ 楼門を入るとすぐに手水場があり、その先には蔵が建つ。蔵と舞殿を挟んで反対側には社務所がある。
手水場付近で撮られたのは、銭形平次「辻占せんべい」。大坂志郎演じる盗っ人が、辻占売りの盲目の少女をお盗めの道具にしようとするも情が移り、という哀話。実は賊の「親切な行商人のおじさん」は、辻占煎餅を売る娘のもとに通いつめ、いつも大吉なのに相好を崩して喜ぶ。少女が決まって店を出すのが手水場付近で、二人のやりとりの背景に蔵が映り込む。彼らを見張る銭形の親分は、楼門下に控えている。 ■ ■ ■ ■ ■ 楼門から続く石畳は、舞殿に突き当たり左右に別れる。舞殿は床をかいたしつらえで、画面ではこれ越しに本殿が見えていたり楼門が見えていたりする。周囲は木柵で囲まれている。
この舞殿は、富籤や美女コンテストの抽選会場になる。 ■ ■ ■ ■ ■ 舞殿の後ろに控えるのは本殿。石垣があり一段高くなっていて、石段を上ってゆく。本殿の周囲には透垣が巡らされ、正面には唐破風が張り出す。
本殿で撮られるのは、お参りのシーン。
「万七必死にて候」では、お百度を踏むお静に何も知らず軽口を叩いてゆく万七親分がラスト近くに出てくるが、この際本殿の石段を上がったところに鎮座するお猿さんが映り込む。金網に覆われているのは、御所や赤山禅院のお猿と同様の趣向(お猿の位置は舞殿の写真に矢印で記載)。 本殿脇には摂社がある。右側(南側)には豊国神社(樹下神社)と愛宕神社(秋葉神社)が、左側(北側)には天満宮が鎮座する。ロケに使われる「本殿脇」は左側で、銭形平次「御典医の夢」では、脅迫者が殺される明神境内として出てくる。富商の当て馬に過ぎぬ御典医見習い(山本学)が、平次に誰何され今際のきわの「脅迫者」を医師なら診てくれと請われるも、身分柄町人の脈はとれないし死体を触るのも禁忌と断わるシーンが天満宮脇。
本殿の裏手には、唐破風のついた門がある。ふつうこうした「裏」にはこのような施設は無いので、ここから先にあるものを遥拝するためのものかも知れない。門の東には市の保存樹に指定もされた巨木が聳えている。その巨樹・スダジイは根上りも見事な古木で、注連縄が結われ根方には磐座が見える。智積院の墓地のほうから回ってくると、スダジイの裏手にある玉垣の下はちょっとした崖になっている。
スダジイ越しに本殿裏手を見た図は、銭形平次「振袖が泣いている」で、図案を剽窃されたと恨む父が、娘たちの振袖の袂に火が投げ入れられる事件の犯人ではと問い詰める息子(峰蘭太郎)のシーンで登場する。 京都市東山区妙法院前側町 |