時代劇ロケ地探訪 嵐山公園

 嵐山公園は渡月橋と中州を中心とした一帯で、保津峡を抜けてきた桂川が山城の野に出る山紫水明の地は、古来より愛でられたスポット。
利水のための水の取り回しが、時代劇によき風景を提供するのが面白い。


■ 嵐峡

 渡月橋のすぐ上手の大堰の上は湛水域となっており、貸ボートや遊覧船がゆったりと浮かんでいる。ここを嵐峡と称する。五月に車折神社の三船祭が行われ、王朝絵巻が繰り広げられる場所である。保津峡船下りの終着点でもある。

嵐峡  左/左岸から、右/右岸から
嵐峡 船着き

 嵐峡は船遊びのスポットだが、ドラマも同じ。静水面に芸者を乗せた屋形船が浮かんでいたり、船着きが使われたりする。
 雲霧仁左衛門[山崎努版]「狙われた男」では、抱きこんだ火盗改の与力・岡田について雲霧のおかしらと小頭の木鼠の吉五郎が話すシーンに用いられた。剣客商売「鬼熊酒屋」では、大滝秀治の鬼熊オヤジを送っていく小兵衛夫婦の船が見られる。松方弘樹の遠山の金さんでは頻繁にここが使われ、金さんが死体検分に首を突っ込んだりしている。八丁堀の七人では、御用金強盗に仕掛ける派手な大立ち回りに使われた。

■ 中州

 大堰でせかれた水は左右に振り分けられる。大堰の杭から流れ落ちるのが本流、右手の掘割へ行った水は桂川用水に導水後再び本流に戻る。
本流と掘割の間には「中ノ島」と呼ばれる中州があり、舳先の上端は大堰上の湛水域に突き出している。掘割は下に水門があるのでしばらく湛水域。水門手前には、船下りの船が陸揚げされる作業場がある。船はトラックに載せられ、老ノ坂を亀岡に戻ってゆく。

中州舳先 上流側 水門
中州 渡月橋上手 南面

 掘割がはじまってすぐの水面には、たくさんの船が舫っている。
嵐峡から続く静水面を使った例では、剣客商売「嘘の皮」で、香具師の元締の一人娘に手を出してヤバいことになる旗本の若様を送ってゆく秋山小兵衛の船が印象的。この際舳先のコンクリート構造物が映っているが、さほど違和感はない。必殺必中仕事屋稼業の「表を裏で勝負」では、対岸の桂川左岸沿いの道にヘッドライトを点けた車が行き来するのがはっきり見えるが、本放送時には全く気付かなかったし必殺だし、却って面白かったりする。
丸山明宏の雪之丞変化「夕顔心中」では、上写真右の中州にある料亭が使われた。憎い仇の土部三斉の妹である北町奉行の妾宅裏手がここに設定されているが、現在とは建具等かなり異なる。

■ 渡月小橋

 掘割には渡月橋から続く道に架かる小橋がある。掘割がたっぷり水を湛えているので、橋桁と水面が近い。橋の様態は渡月橋に準じたデザイン。欄干は木製で、桁隠しもちゃんと付いている。橋南たもとにある石段は、保津峡下りの船頭さんたちが使っている。

渡月小橋 下流側から
渡月小橋たもと 階

 橋桁の下を覗き込んだアングルや橋たもとの階などは、たくさんの堀を巡らせていたお江戸の水景を表現するのに絶好のアイテム。撮影所の水面と組み合わされ、絶妙の効果を生む。
橋南詰たもとの階はいろんなドラマに用いられるが、印象的なのは必殺からくり人富嶽百景殺し旅「江戸日本橋」で瞽女が連れ込まれる、日本橋の掘割に面した富商の蔵まわり。長七郎江戸日記「長七郎の陰謀」では、酒井忠清の陰謀に巻き込まれた長さんが裃をつけてお城へ上がる際、船に乗り込むのがここ。棹は火野正平演じる辰三郎が操り、なぜ大手門でなく不浄門から入るのか問う一幕がある。必殺仕事人 III「つけ文をされたのは主水」では船着きとして階が使われ、オルゴール店側に竹垣があしらわれていた。

■ 中州掘割

 水門の下も、中ノ島橋の上手にある堰によりまだ湛水域。護岸はかっちりと組まれた石垣で、このあたりに来ると岸と水面には距離ができる。
中ノ島側には料亭の建物裏手が見え、南岸には桜並木が沿い嵐山を借景とする。

中州掘割

 この石垣と静水面が、よい画を提供する。
大川橋蔵の銭形平次では、よく堀端で変死体の検分が行われている。面白い使い方では「心中屍体始末」で、堀の南に塀をあしらい行き止まりが堀という趣向にして立ち回りのすえがらっ八が堀に落ちる画が撮られている。対岸の料亭の建物が映るのが効果的。
五稜郭では、鳥羽伏見で負け彰義隊も壊滅したあと北へ向かう「脱走軍」が舟艇に乗り込む船着きがここで、足場を組んであった。

■ 錦

 中州にはたくさんの飲食店が軒を連ねる。気安く麺類や軽食を出す店にまじり、本格の料亭もある。そのひとつが桜宿膳が名物の「錦」で、かの池波正太郎も贔屓にした店である。中元歳暮におつかいもんにする惣菜を出している錦味は、ここの経営。

 佇まいが昔から変わらないのが、古い映画やドラマで確かめられるのも一興。
設定はそのままの料亭が多く、裏の堀と組み合わせて船宿に仕立てることもある。
雷蔵の眠狂四郎 勝負では、老勘定奉行の爺さまに惚れこんだ狂四郎が勝手に護衛を決め込むくだりで、つきまとうなとうるさがる爺さまと掛け合い漫才をするのが錦の前。
栗塚旭が土方歳三を演じた名作ドラマ新選組血風録の「昏い炎」では、芹沢鴨が押し借りを断られたことを恨み商家の女将に無体を働く伏見の船宿で、企みに気付いた土方が馬で乗り付けている。
鬼平犯科帳「艶婦の毒」では、木村忠吾が色っぽい盗っ人の女に引っ張り込まれる鴨川べりの料亭。必殺仕業人「あんたこの勝負をどう思う」では、千両かかった将棋の大勝負が行われる江戸の料亭。この番組でもそうだったが、店名の入った看板などそのままのこともよくある。

■ 中州下手

 中ノ島橋上手の堰堤を過ぎ橋をくぐると、水は元の川に戻る。中州もここで終わり、下端の舳先は草深い汀に続いている。南側の河原は花見時にはゴザを敷いて宴会場となり、普段の平日にはサークル活動の場となる。

中ノ島橋上手堰堤 中ノ島橋下手河原
河原へ下りるステップ 河川敷と中ノ島橋
中州舳先 下流側 中州下手汀

 堰堤まわりの使用例は「中ノ島橋」の項に譲り、ここでは橋下手の風景を取り上げる。
河川敷へは簡単な鉄製のステップで下りる。必殺仕置屋稼業「一筆啓上欺瞞が見えた」では、色悪の弟子にさんざんな目に遭わされる清元の師匠が、座主の娘に無体を働いている男のもとに駆け寄るシーンでこのステップが映っている。開き直った綿引洪が山田五十鈴の手を振りほどき去る、凄絶な場面。必殺仕事人Vでは、上写真中段右のアングルで組紐屋の竜の派手な仕置が繰り広げられる。
中州の下端は二段の石垣で、段差を利用し効果的な画面が作られる。ここへ腰掛けて釣りという構図は、数え切れないほど使われている。中州が尽きたあとの汀は、土左ヱ門が見つかる場面に多用される。

■ 桂川

 渡月橋をくぐった桂川本流は、浅い瀬を噛んだあと落差工に堰かれる。広々とした浅瀬には水鳥が羽を休め、盛夏時には涼を求めて足を浸す人で賑わう。

中州から見た桂川堰堤
渡月橋下手 左岸から見た桂川

 堰からの落水も涼しげな水景はもうそれだけで絵になるので、主人公の男女が逍遥するムーディーな場面で音楽を流していたりする。
河川敷に茶店をあしらって町娘の相談を受ける徳田新之助、という図は暴れん坊将軍のお決まり。他の作品でも頻繁に使われ、建具を持ち込んで円窓越しに流れを見たりと、さまざまな工夫がなされる。
水と土左ヱ門は切っても切れないので、その検分の場面も数多く撮られている。御家人斬九郎「乱調麻佐女」では、盗っ人の死体が落差工のいちばん下あたりに引っ掛かっているのを町方が引き上げるというシーンがある。川岸に上げられた死体を検分する役人たちの背後には小さく中ノ島橋が映りこんでいる。江戸中町奉行所2「夫婦喧嘩を犬が食った」では偽小判鋳造に絡む事件で殺されたかざり職人の死体が上がる場面で使われた。
左岸の臨川寺地区には松並木が沿う。銭形平次「謎の千両富」では、凶賊の一味が合図に流す丸太を細工しているのが左岸河川敷。御家人斬九郎「用心棒二人」では、無惨な事件の次第を斬九郎と話す蔦吉の姿がある。


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