時代劇の風景 ロケ地探訪 枳殻邸 (渉成園)

枳殻邸入口 枳殻邸(きこくてい)・渉成園は建て込んだ京都市街地に残された緑のオアシスで、起源は平安初期に遡る。
嵯峨帝の皇子で左大臣の源融が奥州の塩竃の景を再現し愛でた河原院がそれで、源氏物語の華やかなる六条院のモデルとなったとも言われている。その後荒れていた園地は徳川氏によりお東さんに寄進され石山丈山の手が入り整備され、幾度かの火災を経て現在に至る。
 河原町通りに長い塀を巡らせた内部は、洛中のただなかにあるとは信じられぬほどの佇まいで、大きな園池を持つのが特徴である。庭としてのカテゴリーはほぼ大名庭園と言ってよい。ゆえに時代劇に使われる際もたいていお城の庭などが多く、暴れん坊将軍シリーズや大奥の江戸城庭園として設定されている。
浸雪橋から漱枕居付近を見る 印月池汀と芝地
 園内に入ると、すぐに印月池の広がりが目に飛び込んでくる。庭の敷地の過半を占める広大なもので、周囲には密に木が植えられている。
池の西側は広く芝地がとられていて、池の景観を広々と明るいものにしている。池の中には築島が作られていて、東屋が設けられている。南端には池に張り出した漱枕居があり、汀に渡りのカモが羽を休めている。
池に姿を映す侵雪橋 芝地と印月池
 中ノ島となる築島には橋が渡されている。浅く反った木橋で、浸雪橋という雅な名を持つ。
上写真のアングルは比較的よく用いられるものだが、林の上にはビルが顔を出しているので撮影も苦労なことと思う。
使われ方は、お城の庭を逍遥したり片肌脱いで弓のお稽古をする暴れん坊将軍の上様のシーンが多い。ここへお庭番が物騒なことを報告に来たり、大岡さまが政務報告をしたり、じいが叱言を言いにやってくる。頻繁に使われるので、その都度幔幕を巡らせたりガーデンセットが置かれていたりと工夫されている。暴れん坊将軍初期では、「まだ若い」やんちゃ上様が単衣になって池に入り鯉をとっていたりもする。
暴れん坊将軍以外では、必殺シリーズの最終話やスペシャルで江戸城や大奥として使われることがある。池端の芝地に緋毛氈が敷かれたりして、「お城」の記号が作られる。仕切人で、ベルばらをもじった絵草紙「江戸城の菊」の作者が開く、怪しの菊の宴もここだったりする。
変わったところでは、映画国士無双において、にせ伊勢守の中井貴一が奇妙なダンスを披露するのはここの芝地。
浸雪橋  縮遠亭のある中ノ島に渡る
 浸雪橋はラストの逍遥に用いられるほか、ストーリィ進行中にも使われる。例えば、暴れん坊将軍においては初めて出て来る顔が若年寄や勘定奉行などの高官である場合はそいつがワルの親玉であることが多いが、これらが上様に目通りなどというシーンで橋のたもとに控えている場面などに使われる。上様に緊急用件を報告する庭番が渡ってくることもある。また、町育ちのお転婆娘が実は大名のご落胤でなどというケースもよくあるが、そのお転婆がはしゃいで鯉をとってやると橋上から池ボチャ、なんていうシーンが撮られたこともある。
縮遠亭 縮遠亭前の坂 回棹廊
 築島もよく映っている。江戸城という設定なので登場人物は裃を着用していることが多く、肩衣が邪魔で背景が見えないことがあるが、縮園亭前の坂や灯籠などは特徴があるのでわかりやすい。この狭い坂を裃侍が数人で画面を埋め尽くしているシーンなどもある。
回棹廊は中島に渡された屋形つきの橋で、小規模ながら中ほどにバルコニーを持つなど雅なつくり。お城の一部に使われるほか、亡き将軍に仕えた大奥の女たちが暮らす桜田御用屋敷という設定もある(暴れん坊将軍第一シリーズ「咲け!姥捨山の恋」)
傍花閣  東側
 印月池には遣水が南流し注ぎ込んでいる。この遣水の前に傍花閣という変わった形をした東屋が建っている。門のような作りの凝ったもので、両翼に二階への階が張り出しているのが特徴である。一階内部にはベンチが設けられていて、手の込んだ彫刻を施された、野ざらしにしていていいのかと思うような楼である。
傍花閣  西面 傍花閣内部
 傍花閣は上様が遣水付近を逍遥する際の背後によく映っている。識別は先に述べた階段の張り出し。
テレビ画面で見るとどこかエキゾチックな効果をもたらし、印象の強い画となっている。
暴れん坊将軍で江戸城の庭に使われる例がやはり多いが、乾いて候シリーズでも同じくお城の庭として使われ、腕下主丞の実父設定の田村高廣演じる「吉宗」がこの前で野点をしていたりする。
傍花閣と遣水
 この遣水付近では深刻なドラマが展開されたこともある。暴れん坊将軍 II 「秘境!湯けむりに消えた女」がそれで、旧友で信頼している秩父代官の佐伯主水を勘定奉行に推挙する吉宗だが、彼は赴任先で汚職事件に巻き込まれ堕ちてしまう。これを呼び事の次第を問い詰める上様のシーンがこの遣水付近で撮られた。悪事の全てが白日の下に晒され、腹を切るかに見えた佐伯は上様に斬りかかって来る。これを反射的に返り討ちにする上様だが、佐伯は上様の手にかかるつもりで斬りかかったのだった。足元の汀に横たわる佐伯の死体、黙然と佇む上様。以後側近にも口を聞かず塞ぎこむのであった。上様は基本的に峰打ちで人は斬らないので、深刻さが際立つのである。
遣水
 遣水は北の臨池亭の前庭に落ちる滝組から流れてくる。ごく浅いが流量は多く水は清澄。自然の汀に草が茂る部分と、きれいに石組で縁取られた部分とが混じる。周囲に植わる木はうるさくない程度に疎らにあり、明るい林間を演出している。
この空間の広がり具合がいかにも大名庭園らしい大らかさで、江戸城の庭に擬えられたのも大いに納得がゆく。
草地と林間には小鳥が多数すだき、都市の真ん中とは到底信じられない空間である。
臨池亭と滴水軒 代笠席 園林堂
 庭の北部にはちんまりとした施設が数多くある。これらの使用例は少ないが、「いかにも使えそう」なアイテムがひしめいている。
臨池亭は暴れん坊将軍第一シリーズ「吉原、木枯し 女の涙」で、ゴロツキ旗本屋敷の離れとして使われ、夫の出世の贄として差し出された哀れな妻女が連れ込まれている。
印月池北端から浸雪橋を見る
京都タワーが映りこむ

・枳殻邸ロケ使用例一覧

京都市下京区下数珠屋町通間之町東入東玉水町

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