時代劇の風景 ロケ地探訪
− 落合 崖上 −
丹波山地によくあるチャートは密度が高く硬いという特徴があり、よく急崖を形成する。ここ保津峡にはその例が豊富に露出している。 落合は名の通り二つの川の合流点で、この崖下で三尾を流れてきた清滝川が保津峡左岸に入る。下写真の岩は清滝川河口の崖・右岸側のものである。 |
府道50号の落合トンネル(正式名は不明)を水尾のほうに抜けてすぐ左手に川へ下りる道が付いている。道は崖にへばりつくように通じ、途中保津峡を展望できる岩場がある。上写真がその岩磐で、下は断崖絶壁。すぐ下に松の木が張り出している。 ここは時代劇で悪者に追い詰められた主人公やヒロインが魂消る悲鳴を残し落ちる/落とされるスポットである。うちでは便宜的に「落下岩」と呼んでいる。落下してゆくのはたいてい人形である。撮りは上からのものと下からのものがある。 落下の例を見てみよう。斬り抜ける・俊平ひとり旅「死地突入」では関宿で影送りの途中消されかかった男(中村敦夫)の回想シーンで使われた。これは地回りのヤクザに落とされたもの。翔べ!必殺うらごろし「足の文字は生まれた時からあった」では役人に追われるわけありの少女・おきさが岩の上から落下。これは追い詰められ足を滑らせたもの。同「馬が喋った!あんた信じるか」では馬が正十に「タスケテクレ」と言ったその向こうで飼い主の馬子が崖に引っ掛かっている、というのがある。長七郎江戸日記「風魔一族の陰謀」では次期将軍とのお見合いのため京から下向途中の伏見宮の姫君が丹沢山中で忍者に襲われ乳母と共に落下、三匹が斬る!「絶体絶命!さらば三匹埋蔵金一万両の大決戦」では「若大将」が当麻一族に襲われ落下している。 |
岩から府道のほうを見る | 清滝川から上がってくる道 |
服部半蔵 影の軍団「私は殺される!」ではこの付近がたっぷり使われている。半蔵を以前からひそかに慕っていた甲賀のくの一・お甲が抜け忍となって追われるのを半蔵が助ける話で、盲目の妹連れで山道を追い詰められ谷に縄を渡し逃げようとする下りである。ロープは先ほどの「落下岩」に括り付けられ対岸の層状チャートの岩(下写真)に渡される。半蔵は落下岩でロープを体に巻いて、お甲は妹を背負ってロープ伝いに峡谷を渡るというアクションシーンがJACのスタントで撮られた。さすがに背の「妹」は人形だったが大変な力ではある。落下岩で踏ん張る半蔵には当然の如く甲賀衆が襲い掛かるが、人数は上写真右の山道からわらわらと出てくる。 そのほか、必殺からくり人富岳百景殺し旅「駿州片倉茶園の不二」でもこの付近が仕置のシーンにたっぷり使われている。新しいところではCGを駆使しての新傾向の時代劇陰陽師 安部晴明「王都最大の危機」で霊刀・雷切丸をとりにゆくシーンでちらっと「落下岩」が映っている。 |
清滝川河口に屹立する層状チャートの断崖 左・河口左岸側(落下岩見上げ)/右・河口右岸側(通称・書物岩) |
層状チャートの断崖の使用例は服部半蔵 影の軍団「地獄を招く妖僧」で、断崖を登る服部衆が襲われ、崖の途中から槍を刺された半蔵が峡谷に落下するというもの。設定は紀ノ川上流。また、翔べ!必殺うらごろし「突如奥方と芸者の人格が入れ替わった」では代官の奥方を連れ出した先生が朝日を浴びて岩磐の上に端座し奥方の精神の内面を探る、というシーンに用いられた。 |
清滝川河口手前に架かる落合橋 | 落合橋渡ってすぐのトンネル |
面白い例として、保津峡下りをふんだんに使った斬り抜ける「女が愛にゆれるとき」において、俊平と菊母子の乗った御留船を追いかけて崖道を走る弥吉のシーンで、火野正平の独特の走りが緑をバックのシルエットになる部分があるが、落合トンネルでの撮影と思われる。上部・両側のトンネルの曲線はカットされているものと推測される。また、先述の必殺からくり人富岳百景殺し旅でのお艶の仕置シーンもトンネルでのものと思われる。 |
■ 保津峡 表紙 |
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