時代劇の風景  ロケ地探訪

木島神社

鳥居 木島神社は、正しくは木島坐天照御魂(コノシマニマスアマテラスミタマ)神社というが、ふつうは蚕の社と称される。嵐電の駅名も「かいこのやしろ」。
秦氏ゆかりの古社で、社名は秦氏が伝来した養蚕や機織に因む。今も製糸業者の信仰が篤い。
 境内には湧水の池・元糺の池があり、池中に珍しい三本足の鳥居が立っている。その奇体からオカルトふうな連想を呼ぶこともあるが、土用の丑の日には足つけ神事で賑わう地に根ざした氏神さんである。
しかしその神秘的な禊の湧き水は近年涸れがちで、行く末を案じた氏子による調査がはじまっている。


本殿 本殿上部
舞殿 本殿から舞殿を見返る
 木島神社本殿の最大の特徴は高く掲げられた千木で、正面に太い断面を見せる棟木、こじんまりした石段に石柵も識別ポイント。
この造作ゆえに、時代劇で使われるときは町娘が恋人や家族を案じてお百度、などというシチュエーションが多い。今宮神社の摂社やわら天神なども同様の使われ方をするが、ここを使うと樹木が多いので森閑とした雰囲気がよく出る。銭形平次暴れん坊将軍などで、江戸市中の情景として用いられる。ときには徳田新之助がお参りの気風のいい芸者に傘をさしかけいいムード、なんて場面も撮られる。カツシンの河内山宗俊でも、保護した娘を伴ってお参り、などというシーンがある。
お祭り銀次捕物帳ではレギュラーのロケ地となった。南町与力の求めに応じた若者たちは、それぞれに「家出」して事に当たるのだが、彼らがねぐらとする神輿小屋がある神田界隈の神社がここ。朝になると元糺の池で顔を洗ったりする。
池へ下りる階と鳥居 元糺の池 三つ鳥居

 本殿まわりが江戸市中として使われ庶民の生活の場を表現するのとは対照的に、三つ鳥居は神秘的なムードを醸し出すのに使われることがある。
使用例は京極夏彦「怪」の「福神ながし」で、御行チームの前に立ちはだかる強力な陰陽師・中禅寺洲斎の本拠地・武蔵晴明社として使われた。
武蔵晴明社のビジュアルは凝っていて、ここに加え近江の日吉大社と修学院の鷺森神社が併用されている。三つ鳥居が使われたのは、屈折した性格の持ち主の用心棒・風見一学が洲斎を訪ねてくるくだり。洲斎は鳥居のところで護摩を焚いていて、一学と問答のシーンとなる。このときには水は無く、上写真のとおりの情景。
 神秘的な雰囲気を求める以外に、鬱蒼とした社叢がツナギの場などにも使われる。
鬼平犯科帳「怨恨」では、木村忠吾のえらそうな態度に辟易した密偵の五郎蔵が、悪酔いしておまさにぶちぶちと愚痴をたれるシーンがあるが、これは夜の元糺の池。同シリーズ「市松小僧始末」でも同様の使い方がなされ、彦十のとっつぁんが鬼平に報告を上げている。

京都市右京区太秦森ヶ東町


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