敷地神社は、金閣寺にほど近い衣笠の市中にある神社で、繁華な西大路に入口の鳥居がある。ふつう正式名ではあまり呼ばれず、「わら天神」といったほうがよく通る。西大路の辻も「わら天神前」という。北山に降りた神を祀ったのが創始で、室町期に現在地へ遷ってからは木花咲耶姫等の諸神を合わせて祀る。安産の神として信仰が篤く、授かる御守の藁の節で赤子の性別を占う古習がある。掃き清められた境内には厳かな涼気が漂い、繁華な市中にいることを忘れる。初宮参りにやって来る孫子三代の一行なども目立ち、舞殿では近くの写真館のご主人が記念写真を撮影する人を待って新聞を読んでいる。
西大路に面した鳥居をくぐると、参道は鉤型になっている。二の鳥居の正面は本殿ではなく、摂社の六勝大神である。両に植栽のある狭い参道から、やしろ越しに林が見える。繁華な平地にあるのに、ほぼ「余計なもの」は映らない。 参道が使われた印象的な例に必殺仕掛人「おんな殺し」がある。以前手掛けた殺しに疑問を抱いた梅安が、当の現場である深川八幡にやって来て記憶を辿る場面がそれで、参道にひとり立つ梅安の姿が瞬時に過去の縁日に変わる凝った映像となっている。視聴者に向かって語りかけるような緒形拳の演技も見もの。
ここが使用される時の設定はほぼ江戸市中、登場するのは庶民たちである。シチュエーションは、お百度参りや子供の遊び場所が目立つ。 暴れん坊将軍IV「夢を撃った六連発」では、久しぶりに江戸に戻った鍛冶職人の哀話の舞台となった。博打三昧の果ての長い不在のうちに、生活に疲れた妻は周囲の勧めで弟分と再婚しており、その幸せのため断腸の思いで会わずにおく鍛冶職人は、ここの境内で遊ぶ我が子を眺め、母と再会するのだった。昼のシーンでは六勝大神前で近所の子と遊ぶ我が子を眺めやり、夜のシーンでは本殿脇の透垣をバックに、実の母に妻と会うのを思い止まるよう諭される。銃の密造に関わっている職人は、このあと一味と戦い落命するという、しんみりするお話だった。
本殿の三方には透垣がめぐる。先の暴れん坊将軍の使用例でもここを背景にした場面があったが、印象的なのは必殺必中仕事屋稼業「仕上げて勝負」であろう。魔性の女に入れあげ帰ってこない恋人を探してくれという依頼を嶋屋のおせいに出した娘、これがお百度を踏む姿を遠目に仕事屋のツナギが行われるのだが、この際元締のおせいと仕事屋の二人は本殿の内陣にいて、透垣越しにお百度参りを眺めるというアングルが使われている。透垣越しに六勝大神の朱玉垣が映り込んでいる。終盤、彼女の恋人はとうに消されていることが知れ、ワルは仕事人たちにより冥土へ送られるが、娘はまだお百度を踏み続けるのだった。お百度シーンは六勝大神。 京都市北区衣笠天神森町 |