時代劇の風景 ロケ地探訪
黄檗宗は、江戸期に日本に伝わった禅宗で、明から招来した隠元禅師により開創された。 禅師は、宇治の地に自らが中国で住持したのと同じ寺院を建て、黄檗山萬福寺とした。 師に従って来日した中国人僧も多く、今もお経は唐音で発音する。また、寺での食事は普茶料理と呼ばれる精進の中華料理である。 このエキゾチックさを化政期の俳人・菊舎は「山門を出れば日本ぞ茶つみ唄」と詠んでいる。 今も、総門の前に立っただけで異国の趣がある。 |
境内に散見される異国情緒の数々 |
伽藍配置も明様式のもので、匂欄や敷石、窓のひとつひとつに異国情緒が見出せる。 この魅力的な仕様を小道具に、時代劇では唐人寺や長崎の情景に用いられる。 |
総門 | 参道 |
萬福寺入口となる総門は、反りといい作りといい、もうここから中国の雰囲気。 ここは、松方弘樹が遠山左衛門尉景元を演じた名奉行 遠山の金さん「引き裂かれた妻たちの夢」で、明誠館学問所の門として使われた。 ドラマ設定は出世の登竜門である素読試験会場となっており、息子たちの試験をやきもきして待つ母親たちの姿が門前に見られる。 江戸期の学問は儒学が主体で、学問所に孔子廟が建てられる例もあったので、明代の香りを伝えるここは理屈からもよい背景となっている。 参道は、菱に並んだ敷石で統一されている(石篠)。ここは風「小判を買う男」で、慶長小判を買い漁る唐人の滞在する寺として使われた際、通辞に会いに来る芸者のシーンで使われた。 |
開山堂と通玄門 | 開山堂 |
開山堂の匂欄 | 開山堂から天王殿への回廊 |
開山堂は、創始者・隠元禅師を祀ったお堂で、朱で塗った腰板を持つ通玄門からしてエキゾチック。左右に掲げられた見慣れない文言や色使いも雰囲気を醸しだす。 ランダムな敷石を踏んで堂に近づくと、卍をあしらった匂蘭が目に飛び込んでくる。お堂の前廊下や回廊の石畳も、独特のリズムを持つ。扉にあしらわれた桃も珍しい。お堂前に多数並ぶ蓮の鉢は、ドラマでは映っていないことが多い。 ここ開山堂は、萬福寺で最も多く使われる場所である。設定は長崎や唐人寺といったものが多い。 必殺スペシャル「世にも不思議な大仕事 主水と秀香港マカオで大あばれ」では、マカオ総督府の庭として使われ、依頼人のセシリアと共に捕まった秀が、解放を賭けて大男の闘技士と戦うシーンが撮られた。セシリアが卍の匂欄に括られていたりする。 風「小判を買う男」では、通辞の張子明が滞在する江戸の唐人寺として使われ、卍の匂欄が印象的であった。 御家人斬九郎「青い肌の謎」では、斬九郎がはるばる訪ねてゆく、長崎の王紹栄滞在の屋敷として使われた。回廊に置かれた異国ふうの卓につく斬九郎の姿がなかなか決まっている。次第に王大人に友情を覚え始める斬九郎の心情と背景が、よく溶け合っていた。 先述の遠山の金さんでも学問所の一部として使用されていたが、現在修復工事中の松隠堂のほうが主体で、下校する子供たちの姿がある。これは書院造の和風建築で、隠元禅師が晩年住まわれたという。 |
三門 | 天王殿 |
天王殿の匂欄と回廊 | 天王殿の匂欄 |
隠元禅師書の額を掲げる三門を入ると、明式に並んだ諸堂がある。 |
天王殿は、必殺スペシャル「勢ぞろい仕事人!春雨じゃ悪人退治」で、夜の長崎市中として使われ、シーボルトを襲う刺客を撃退する仕事人・鶴の姿がある。照らし出された天王殿の匂欄と石篠が、長崎情緒をいや増していた。 前述の御家人斬九郎でも使われていた。 |
大雄宝殿 | 法堂 |
大雄宝殿前廊下 | 法堂の匂欄越しに大雄宝殿 |
大雄宝殿は本堂で、釈迦如来を祀る。 宇治市五ヶ庄三番割 |
|