ここは、区画整理されたあと放置された造成地。草に埋もれて「××パーク」などの朽ちた看板も見つかる。建てたものの捨て置かれた家屋も二三残っていて、開け放しの窓から室内を覗くと、昭和40年代のものとおぼしきスイッチプレートがついている。しばらく人が入った形跡のない道には、獣のされこうべが落ちていたりもする。造成地の過半は土盛りのままで、崖縛りにでもしたのか、幼松が育っている。赤土の露出した起伏が目を惹き、瑞々しい山なみが美しい。
ここの最も印象的な使用例は2004年に放送された大奥 第一章「非業の死」。
密かに続いてきた家光の側室・お万の方と「笛吹き」青年の恋が悲惨な結末を迎える舞台がここ。
疱瘡に罹り一時は死地にあった家光がからくも治癒し、東照宮へ参詣に向かう街道という設定で、上写真左の土盛りが小休止の将軍御座所として撮られた。アングルは写真の通り、オレンジの楕円で囲った部分に家光が座す。ここは崖っぷちで、下から見ると上右の写真のようになっている。
休んでいる将軍のもとに、追放されていたはずの「笛吹き」青年が突然現れる。彼は決死の覚悟で家光にキリシタン弾圧の中止を訴えようとして近寄ったのだが、近侍に阻まれやむなく斬り結んだ刃は間のわるいことに将軍の背を切り裂いてしまう。こうなってはもはや青年の運命はひとつ、膾となり血塗れの凄絶な死を遂げる笛吹きの背後に丹波高地の青い空が眩しく輝き、鳴り響く壮麗な「大奥」のグランドテーマに青年の吹く笛の旋律が重ねられる。
この旅程は家光の公的な参拝なので、何代かあとの無謀な暴れん坊のお忍びと違い、美々しい行列を組んで道をゆく。
そのシーンは、さきほどの御座所から少し東に入った広場で撮られた。派手な大人数の行列が、上写真左の奥からやってくる。松並木は他のところよりは背高、上右写真ではスケールに人を配してみた。
暴れん坊将軍 11「め組から消えた少女」は、御用金が強奪される話。
中山道・鴻巣付近で襲撃があり、吹き矢が使われたことで大岡忠相と側用人の有馬彦右衛門は狩場改めに赴く。しかしそこには偉そうな旗本たちが待ち構えていて、吹き矢について尋ねられるもしらばっくれ倣岸な態度で接し、挙句の果て大岡さまに向けて矢をつがえてみせたりする。この場面に使われたのが上写真上段の山を背負う広場。様々な樹種から成り微妙な緑のモザイクが美しい小山が、画面によく映える。
そして後段、果たして御用金強奪犯だった旗本たちが隠していた金箱を出してきて高笑いのところへ葵の御紋つきの矢が射ち込まれ、次いでぱかぱかと蹄の音がこだましてくるのだった。白馬に乗って現れる上様は、上写真下段右のような道を降りてくる。
暴れん坊将軍 9「吉宗危機一髪!美しき婚約者の献身」は、タイトル通り上様大ピンチの一話で、冒頭から崖にぶら下がって弱音を吐いたりしているのである。このとき上様の居場所を知らせた白い鷹・雷鳴号は第9と第10シリーズでオープニングに登場する鷹。2シリーズ通して暴将の顔となる鷹狩の野は、この造成地(よその広い野原もミックス)。
このお話の舞台設定は、八王子散田村の公儀御鷹狩場。狩りのシーンでは先の鴻巣に擬された広場などが使われ、幔幕を張り巡らせてある。
散田村の庄屋は咎を受け処刑されたとされ、共に投獄された息子は拷問のせいで呆けてしまっているが、彼は何かに憑かれたかのように杭を打ち縄を張り測量の真似事をし続ける。これは篤農家だった庄屋と息子が手がけていた用水で、隠し金山を掘っていたワルが成敗されたあと正気に戻った青年は、晴れて工事に着手する運びとなる。その、青年がままごとのように杭を打つくだりは、上写真左のような水脈を使って撮られた。放ったらかしの荒れ地で溝なども掘られていないため、降水は土を削り地道に「原始河川」を穿ち流下する。そのかたちをうまくドラマに取り入れてあるのも、こうした立地ならではの使い方。ちなみに、実際ロケに使われたのは上写真右の小道だが、この日は明瞭な水みちはできていなかった。
→ロケ使用例一覧
京都府船井郡京丹波町
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