時代劇ロケ地探訪 鳥居本

化野念仏寺手前 二尊院を過ぎ祇王寺を過ぎ、なお北へゆく道は愛宕への参詣道。門前町たる鳥居本は、よき風景を官民一体となって残す町なみ保存地区。商店も控えめなしつらえで、旨そうな匂いを表にくゆらす飲食店や、荷物になるのについつい買ってしまう土産物店が軒を連ねる。家並みが尽きる道隈には、赤い大きな一の鳥居が控えている。

一の鳥居  右表側、左裏側

 一の鳥居は道別れに立っている。左へ行けば六丁峠を経て落合、右へ行けば愛宕念仏寺の前を過ぎてトンネルとなる。ここを抜ければ清滝の峡谷へ出て、最も一般的な愛宕参りの道へつながっている。立派な両部鳥居で、この作りも画面によい効果をもたらす。

 鳥居では、必殺商売人最終話「毒牙に噛まれた商売人」のラストシーンが撮られた。連れ合いだった新次を亡くしたおせいが旅立つくだり、平野屋の縁台から愛宕街道を見返るアングルで、石段を登ってくる草笛光子が映し出される。この直前に彼女は中村主水と別れを済ませており、その際主水は赤子が死んだことを告げず「まるまる太ってやがってね、女の子なんだ」と虚言する。そして鳥居のシーンがあり直後に子の野辺送りが来る、哀切なひとこまである。
水戸黄門33「帰ってきた風の盆」では、踊りに参加するため三々五々集まってくる民衆のシーンがここ。平野屋前から導入、愛宕のほうから来る人と六丁峠のほうから来る人が合流するふうに使ってあり、効果的。
工藤栄一監督の映画・十三人の刺客では、「悪逆の殿」一行がゆく信濃路として出てくる。つたやの店先をナメて、一の鳥居の脚が画面端にくる絵で、中山道を表現。

平野屋
つたや

 鳥居の手前につたや、向こうに平野屋と二軒のゆかしい宿が建つ。どちらも萱葺きで、下がっている暖簾すらも時を止めたような風情。新緑や紅葉の折には、屋根に瑞々しい若葉や眩しい紅葉が映えて美しい。
平野屋は池波正太郎氏お気に入りの店で、随筆にもここの鮎を絶賛した一文が見える(「散歩のとき何か食べたくなって」所収『京にある江戸』)。また小説の鬼平犯科帳「兇剣」には、骨休めに京都に来ている長谷川平蔵が木村忠吾を伴って愛宕へ参るエピソードがあり、参詣を終え山を下りた二人は[平野や]で昼をとると記されている。佳肴に舌鼓を打ちしたたか昼酒をのんだあとおかしらとうさ忠は春の嵯峨野で昼寝をするが、ここで凶盗から逃れてきた娘を拾うのであった。ドラマの「兇剣」では惜しくも平野屋まわりは出てこないが、かわりに化野念仏寺の石仏の間をゆく吉右衛門の姿が見られる。

 四百年近い歴史を持つ宿は、劇中でもまんま街道筋の旅籠として使われる。三隅研次監督がメガホンをとった雷蔵主演の桃太郎侍では、兄である若殿にすりかわって旅に出た桃さんを追ってきた小鈴師匠のくだりがここ。鳥居も映り、六部の集団がすれ違い、木暮実千代は平野屋へ入ってゆく。
平幹二郎が薩摩に潜入する隠密を演じた薩摩飛脚では箱根湯本、村上弘明が明朗快活な剣客を演じた月影兵庫あばれ旅では伊勢亀山城下として使われた。

京都市右京区嵯峨鳥居本町

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