二尊院を過ぎ祇王寺を過ぎ、なお北へゆく道は愛宕への参詣道。門前町たる鳥居本は、よき風景を官民一体となって残す町なみ保存地区。商店も控えめなしつらえで、旨そうな匂いを表にくゆらす飲食店や、荷物になるのについつい買ってしまう土産物店が軒を連ねる。家並みが尽きる道隈には、赤い大きな一の鳥居が控えている。
一の鳥居は道別れに立っている。左へ行けば六丁峠を経て落合、右へ行けば愛宕念仏寺の前を過ぎてトンネルとなる。ここを抜ければ清滝の峡谷へ出て、最も一般的な愛宕参りの道へつながっている。立派な両部鳥居で、この作りも画面によい効果をもたらす。 鳥居では、必殺商売人最終話「毒牙に噛まれた商売人」のラストシーンが撮られた。連れ合いだった新次を亡くしたおせいが旅立つくだり、平野屋の縁台から愛宕街道を見返るアングルで、石段を登ってくる草笛光子が映し出される。この直前に彼女は中村主水と別れを済ませており、その際主水は赤子が死んだことを告げず「まるまる太ってやがってね、女の子なんだ」と虚言する。そして鳥居のシーンがあり直後に子の野辺送りが来る、哀切なひとこまである。
鳥居の手前につたや、向こうに平野屋と二軒のゆかしい宿が建つ。どちらも萱葺きで、下がっている暖簾すらも時を止めたような風情。新緑や紅葉の折には、屋根に瑞々しい若葉や眩しい紅葉が映えて美しい。 四百年近い歴史を持つ宿は、劇中でもまんま街道筋の旅籠として使われる。三隅研次監督がメガホンをとった雷蔵主演の桃太郎侍では、兄である若殿にすりかわって旅に出た桃さんを追ってきた小鈴師匠のくだりがここ。鳥居も映り、六部の集団がすれ違い、木暮実千代は平野屋へ入ってゆく。 京都市右京区嵯峨鳥居本町 |