鯖街道が途中峠にかかる手前、旧道のかたわらに佇む浄土宗の古寺は、慶長年間に弾誓上人によって開かれた念仏の道場。長い修行の日々を過ごした上人が入定なされたのがこの山で、生身仏を納めた龕が残されている。御本尊は、上人が自らの髪を植えられた阿弥陀仏(右写真の本堂蔵)。 下写真の山門はほんの入口で、諸堂はこの先の長い坂を登りつめた上にある。坂の傍らには谷川が流れ鬱蒼と古木が繁り、四季それぞれに趣き深い。 |
古知谷阿弥陀寺 山門 |
山門は、シンプルな一層の竜宮造りふう楼門。 この優雅な門が使われたのは、田中邦衛が豪快な目明しを演じた岡っ引どぶ「京洛殺人事件」。お話は、公卿連続殺人が殺生関白・秀次の隠し金を狙った悪党の仕業という筋立てで、十万両が隠された井戸は六道珍皇寺(ろくどうちんのうじ)にあるという設定。その珍皇寺の門として、ここの楼門が使われた。カメラはローアングルで参道から門に寄ってゆく。このあとの隠し金の井戸のくだりは嵯峨の山奥の野原で撮られていて、この門はほんの一瞬しか映らないにもかかわらず鮮明な印象を残す。 |
珍皇寺山門 周囲は商店街 |
小野篁像 隣には閻魔像 |
六道の辻 南は六波羅蜜寺 |
井戸のシーンは破天荒で、欲をかいた悪徳商人が中に入り斧で壁をガンガンやっていると横穴が崩れ遂に落盤・出水、井戸からは彼の血潮で真っ赤に染まった水がどばっと溢れ出すという、ちょっとスプラッタなもの。 劇中、珍皇寺は島原の太夫の口から「小野篁はんの像のある六道さん、松原坂の珍皇寺」と語られる。お寺には「井戸」があり、冥府への入口と伝わる。小野篁卿は昼間は朝廷に仕え夜は閻魔さまの副官を勤めたという伝説を持つ奇人で、この井戸からあの世とこの世を行き来したのだという。こうした薄気味悪くもロマンチックな伝承がドラマの肉付けに使われたものと思うが、その不思議な空間へのイメージ導入に阿弥陀寺の楼門は重要な役割を果たしている。 |
古知谷阿弥陀寺/京都市左京区大原古知平町 六道珍皇寺/京都市東山区松原通東大路西入 |
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