時代劇の風景 ロケ地探訪
仁和寺 中門


 緩やかな参道は、途中で中門に行き当たる。門へは短い段を上がる。簡素なつくりだが、柱や扉に垂木が鮮やかなサーモンピンクに彩られて目を引く。
現在はすっきりときれいな姿だが、昔の作品では剥落の激しいさまも見られる。両翼は塀。

中門正面

 中門の使用例は、表側より内側のほうが幾分多い。表側では、ステップを効果的に用いる例が目立つ。暴れん坊将軍のラス立ちが好例で、門前の短いステップが派手な立ち回りによい動線をもたらす。長く続いたシリーズなので、使用回数はかなり多い。
中井貴一が大石内蔵助を演じた異色作・携帯忠臣蔵では、刃傷後の経緯を語る背景にモノクロの中門が使われている。
鬼平犯科帳「さむらい松五郎」では、両親の墓参の帰りの火盗改同心が大盗・さむらい松五郎と間違えられ須坂の峰蔵に声をかけられている。
藤沢周平原作の用心棒日月抄では、殿様暗殺の企みを阻止しようとして妻の父である上司を斬ってしまい出奔した男が、浪人仲間に吉良邸用心棒のバイトを持ちかけられるくだりに使われた。ヤバい話なんだけどと持ちかける竜雷太に、杉サマが「大石って誰」と聞くコミカルなシーン。アングルは門の際に立つ二人を見上げる図で、上写真右の人がいるあたり。

中門と桜 左/参道の桜越しに表側 右/御室桜越しに内側
中門 内側

 中門を見返ると、開口部から二王門が望まれる。背景に二王門をかなり大写しにする例もあり、引いたり寄ったり視点の上下にも違った趣きが生まれる。門をくぐって左手には御室桜の林がある。
 剣客商売「助太刀」では、小兵衛の剣友の娘に偽りの恋を仕掛ける男のくだりで、見返りのショットが使われた。父の世話で婚期を逸した娘は、薬を取りに行き来する道で、男と「偶然」何度も会い、次第に恋に落ちてゆく。
テレビ版の壬生義士伝では、ぼろぼろになって京へ辿りついた南部盛岡の侍・吉村貫一郎が握り飯を頬張っていると、中門から新選組隊士が不逞浪士を追って現れる。同じく渡辺謙が主演の御家人斬九郎では、微禄ゆえ稼がねば食べてゆけない御家人の境遇を語るオープニングで、斬九郎が中門に走りこんでくる。
八丁堀捕物ばなし「送り火」では、定町回りの狩谷新八郎が偶然知り合った薄幸の女と市中で行き合わせるシーンに使われ、中門開口部から二王門が大写しになる。

茶店 茶店と参道、塔

甘酒 中門をくぐって右手には茶店があり、冬季には甘酒(右写真)を出す。ここは劇中でもたいてい茶店で、緋毛氈の床机を前に出したり、暖簾を掛けたりして飾り付けられる。

 江戸を斬る III 最終回では、四万六千日の縁日で賑わう浅草観音の茶店として使われ、饅頭を食いすぎて腹痛を起こした遠山金四郎のおばば様が、阿片入りの怪しげな薬を売りつけられている。
長七郎江戸日記2「蛍火」は、贋作作りに利用されたうえ追われる身となる悲しい運命の侍の話で、彼の恋人が勤める大鳥神社そばの茶店がここ。
鬼平犯科帳「俄か雨」は、勘定方の細川峯太郎が市中見回りの御役に就く過程を描く一話。嫁を迎えても茶屋遊びが改まらぬ細川に平蔵の雷が落ちるが、細川が墓参と称しうろつく目黒界隈の描写で、不動前で黒飴をひさぐ桐屋がここ。参道も併せて用いられる。

 茶店から金堂へは緩いステップを上がる。
ここは喧嘩屋右近のエンディングで右近夫婦がいちゃいちゃと体を寄せながら上がってゆくのに使われた。杉サマの女房役は萬田久子から坂口良子に代わるが、同じ画が撮られている。右近では劇中使用例も多い。新・三匹が斬る!「母恋し、狐涙の妖怪変化」では、相馬藩の姫様の狐憑き騒動を聞く茶店がここ。


→仁和寺表紙

*ロケ使用例一覧 ・1989年以前  ・1990年以降


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