時代劇の風景  ロケ地探訪

中ノ島橋

南詰正面 南詰下流側から
 大堰川(おおいがわ)が桂川と名を変えるあたり、有名な嵐山・渡月橋下手の中洲に渡された小さな木橋がある。
阪急の嵐山駅から道なりに行くと渡る橋で、休日ともなると大勢の観光客で溢れ屋台が立ち並ぶ。人々はこれから訪ねる名所旧跡・寺社仏閣に心を馳せ、この橋は別段意識することもなく渡ってゆく。また、ウィークデイは魚を釣りにきているオッチャンらと堰上に立ち込んで同じく魚を狙うサギのいるなんということはない橋だが、ここが頻繁に時代劇撮影に使われるスポットのひとつなのである。桂川用水を取水する導水路に架かるこの橋は中州に渡る橋なので「中ノ島橋」という。形状から「太鼓橋」とも呼ばれる。
橋上の風景  南から
 こういう小体な太鼓橋を使うのは撮影所のオープンセットが多いが、やはり場面によっては山も映り木々が河畔に繁り流れもあるロケの画がしっくり来る。
同様の使われ方をするのに平等院そばの宇治川中ノ島へ渡る橋がある。しかし遠いため、使用頻度に格段の差がある。
南詰下流側から 南詰上流側から
北詰上流側から 北詰下流側から

 まず、橋の姿を四つの角度から見てみる。橋脚はコンクリート製ながら形は古風なもので、よほど接近しないとそれと判らない。欄干は木製で、程よく古びていて裾には優美な桁隠しの覆いも付いている。護岸は石垣ふう。周囲には電柱が一基あるものの視界を遮るような建物も無く、絶好の撮影条件を満たしている。

 「余計なものが映らない」ことのほかに中ノ島橋が頻繁に使われる理由は橋のすぐ上にある堰堤であろう。近代以前にはここまでぴしっと直線の堰はあまり無かったと思われるが、時代劇の川には堰堤が映っていることが多い。別段時代劇に限った事ではなく、ニュース映像などでもカメラマンの目線はこうした流れに向きがちであると言える。白いしぶきを上げてレース状に涼しげに落ちる水は確かによい素材である。夜間撮影で照らされた時にも、効果的にしぶきが光っている。

堰堤 左岸から 堰堤 橋上から
欄干越しに堰堤を見る 橋脚と堰堤
 中ノ島橋は何に擬されることが多いかというと、圧倒的に江戸市中の水辺である。大川や日本橋、面影橋など特定の場所に指定されることもある。
橋を渡る人や荷車、欄干に凭れる人、橋上から下を見る群衆、橋下の流れ、橋越しに山、ありとあらゆる角度で撮られている。昼のシーンも夜のシーンも撮られる。また、橋からの身投げ、もしくは追われて飛び込むという荒技も見られる。さして深いとも思えないのに、役者さんも大変である。橋下で土左ヱ門が発見されるというケースもあるが、死体発見現場は桂川本流でのほうがやや多いように見受けられ、その際遠景に中ノ島橋が映っていることもある。
堰堤から分けられた水路 橋桁のアップ
橋から川を見下ろす 右岸から橋を見上げる
 鬼平犯科帳「暗剣白梅香」では鬼平が橋上で凶悪な辻斬りに襲われ、「あきれた奴」では火盗改同心・岡村が心中しようとする母子を助け、「女掏摸お富」ではお富の兄貴分の掏摸が失敗を責められ斬られて川に落ち、「引き込み女」では密偵のおまさと現役の引き込み役・お元が沢田同心により磯部の万吉の刃から救われる深川万年橋である。「蛇苺の女」で亀戸天神へ向かう道すがら長谷川平蔵が渡る橋もこれで、「白根の権佐衛門」でスリの死体が上がるのはこの橋の下。「のっそり医者」では医師・萩原宗順が難を避け欄干を乗り越え自ら川に身を躍らせるシーンが撮られた。「穴」では引退して悠々自適の元盗賊・平野屋源助が遊びで盗みに入ったあと用済みになった合鍵を特有のしぐさで舐ってから捨てる金杉川として使われた。「同門対決」では大川万年橋を渡り別れゆく砂蟹のおけいと笹倉の太平のシーンに用いられた。
新必殺仕置人「元締無用」では元締・とらの実娘が橋上で商いをするシーンが撮られた。「抜穴無用」では巳代松と知り合いの大工が豪勢な舟遊びをしている豪商を欄干に凭れて見下ろしている。
必殺仕事人「離れ技孤立水火攻め」では息子の死後とぼとぼと橋を歩いてくる母親が橋を渡りきり左岸の堰堤そばで物思いに沈んだあと身投げするシーンが撮られている。
新必殺からくり人・東海道五十三次殺し旅最終話「京都」で蘭兵衛がブラ平の炎で顔を焼きチームから離れるシーンはこの橋の下。
暴れん坊将軍などの定番ものでも多用され、公儀お庭番が追われる途中橋桁にぶら下がってやり過ごすなどの変わった使い方もなされる(上写真の「橋から川を見下ろす」と同アングルでぶら下がる庭番の姿が映される)。また、上様は城の水門から船を出して抜け出し市中の堀端に上がる姿がよく見られるが、堰堤近くの岸からのものもある。
京極夏彦「怪」第一話では、首無し死体がぶら下がっていた。橋下の護岸の石にびちゃっと血が撒かれる。これは上写真にある「堰堤から分けられた水路」のところで撮られたもの。木枯し紋次郎「大江戸の夜を走れ!」で花川戸への道すがらお小夜の昔話を聞きながら歩く紋次郎の姿が見られる。
夏 (2002/6/2) 冬 (2001/12/16)

京都府京都市右京区嵯峨天竜寺中島町−西京区上河原町間(嵐山公園)

・嵐山表紙

中ノ島橋ロケ使用例一覧
1960-1970年代 1980年代 1990年代 2000年代 


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