河川用語解説  か行

各行へ →    か        

回春  若返り、侵食の復活ともいう。地形の侵食輪廻が進んで、ある段階にまで達した後、地殻運動・気候変動などの原因により新しい輪廻が始まり、下方侵食が再び盛んになること。回春した川は広い谷の中に狭く深い谷を刻み、河岸段丘のような地形を造る。
開析  風化・侵食などの外部からの働きによって地表面が削られて複雑な起伏を持つようになること。ふつう陸地が川の流れにより侵食され、多くの谷に刻まれる現象をいう。
河岸段丘  川の流路に沿い一様な高さの丘が断続し川に向かって階段状に低くなっている地形で、川の回春により生じた地形。気候変化により水量が増加したり、土地上昇により侵食が復活すると、川は氾濫原の一部を抉って新しい河道を造る。昔の谷底にあたる表面の平坦部(谷底平野)を段丘面、侵食作用により生じた前面の急崖を段丘崖とよぶ。回春の原因により気候段丘構造段丘、また段丘面を造った営力により侵食段丘堆積段丘、段丘面の構成物質により岩石段丘砂礫段丘に分ける。日本では各地に河岸段丘が発達するが、天竜川・桂川・荒川・北上川・利根川(上流)に著しい。
河岸段丘の段丘崖では、その平面形が円弧の一部を成すのがふつうで、これは川の曲流部における側方侵食の跡を示す。
気候段丘・・・気候的条件より河川浸食が復活し、河岸段丘発達する場合の段丘。大陸の地殻運動の少ない地域や氷河周縁地域に見られる。日本では地殻運動が激しいため、気候段丘は不明瞭である。
構造段丘・・・回春の原因が地殻運動によるもの。高度・堆積物が場所により著しく変化する。岩石段丘砂礫段丘に分ける。日本の河岸段丘の大部分は構造段丘。例;天竜川・桂川・荒川
岩石段丘(侵食段丘)・・・段丘崖の大部分が岩石。基盤の岩石が浸食されて段丘ができたことを示す。著しい堆積作用はなく、侵食変化によってできたもの。
砂礫段丘(堆積段丘)・・・大部分が砂礫で構成されている。昔の川床に著しい堆積があったことを示す。
下刻作用  川の流れが川底を深く掘る経過。幼年期の川では下刻が盛んで峡谷を形成するが、壮年期以後では下刻は弱まり、側刻のほうが盛んになる。
河床  河川の流れの通路となる細長い凹地で、水の流れている川底の部分。河川の水量や流速は変化しやすく、河床も一定ではない。河床勾配は一般に上流では大きく下流では小さい。河床はふつう流水の流れる水面に対応した底部分をいうが、河川計画においては計画上の洪水が流下する水面に対応する底部分を指す。
河食  川の流れが行う侵食。川水中には土砂が含まれ、それらが川底や川岸に突き当たって土地を削る。川底を削る垂直的な侵食を下刻作用、川岸を削る水平的侵食を側刻作用(側方侵食)という。
河食輪廻  川の侵食による地形変化の謂。他の侵食輪廻に比し最もふつうに見られることから正規輪廻ともいう。平坦な地形が新しい谷によって刻まれると、まず狭くて深いV字状の谷が本流にできて、次第に支流にも発達する。谷の縦断面形は不規則。滝や早瀬ができる。このような侵食の時期にある谷を幼年期の谷という。更に川の侵食が進むと、下刻作用より側刻作用のほうが強く働くようになり、川底には氾濫原を生じ、川の流路はそこを蛇行(曲流)する。谷壁は緩く谷幅は広くなる。谷底の縦断形は滑らかな曲線を描くようになり、その勾配は川が供給物質を運搬するのに必要な程度で、著しい侵食や堆積が行われない。このような河川を平衡河川または平滑河川といい、この時期の谷を壮年期の谷という。壮年期以後の谷の変化は極めて緩慢で、谷幅はますます大きくなり、曲流する幅に比し非常に大きい。勾配・水量・荷重は共に減少。平坦地は幼年期には最初の表面である原形面が広く残るが、開析谷が次第に大きくたくさんできると、原形面は縮小し壮年期には原形面の広さよりも谷の占める面積のほうが大きくなり、遂には鋸歯状の鋭い山形となる。この時期には起伏量が最大になる。老年期の山地では谷はますます大きくなり互いに接しあって山頂も低くなり、丘陵状となる。更に侵食が行われると海面近くの高度に波浪状の平坦面ができる(従って河床面も低下する)。これを準平原といい、再び隆起すると新しい谷によって刻まれ、第二の輪廻が始まる。
河川の争奪  隣接した河川のうち、どちらか一つの河川の浸食が大きい場合に一方の川の上流部(源頭)を奪い取ってしまうこと。これにより流域に著しい変化が起こる。上流部を奪われた川を載頭川、争奪により新しい流路に変わった場所を争奪の肱という。載頭川の下流部は水量が減り、谷幅に比して流路の幅が狭くなり、時には伏流だけになる。このような川を無能河川という。 例;山口県の錦川支流・宇佐川が高津川支流・吉賀川を争奪した例。茨城県の久慈川が里川上部を争奪した例。
カナート  アラビア語で地下水道の意。イランから中国の、乾燥地域に見られる特殊な灌漑用施設。地下の含水層から水を蒸発させないため暗渠で引き、一定の地点で地上に汲み出し田畑を灌漑する。通風を良くしたり、流れてきた堆積物の除去や修理の便を図るため20〜30mおきに地下に向かって縦穴が掘り下げてある。大地主が水利権を専有し土地農民を支配してきた。24kmにもおよぶ長さを持つものもある。B.C.6〜5にはペルシア国内に設置されていた。アフガンではカレーズ、シリア・北アフリカではフォガラと称する。
川辺林  川辺に発達する木本群落。大雨のたびに冠水するような不安定な立地には一般にヤナギ類やヤマハンノキを主とするヤナギ−ヤマハンノキ群落が発達。乾燥した安定砂礫地ではアカマツによる川辺林形成もある。
灌漑  農作物の生育を順調にするために耕地に適度の水を供給すること。目的により、以下に分ける。 (1) 降水量が少ないか、降水量と植物の必要成分の時期が一致しない地域などで作物の生育に必要な水分を供給する。 (2) 水に含まれる肥効成分を作物に供給する。 (3) 「ぬるめ」などを利用し給水の温度を調節する。ぬるめは「よけ」ともいい、山間や高原のような冷涼な気候では水が冷たく、直接水田に引くと稲の成育を阻害するので、それを防ぐための迂回水路や溜池が用いられる。これをぬるめという。中央高地や東北に多い。 (4) 土中の過度の酸・アルカリ性を緩和する。 (5) 農機具などの使用を給水管理によって容易にする。
 灌漑の必要度は年降水量400mm以下では絶対必要とされ、400〜800mmの範囲はしばしば必要となり、800mm以上の地域は時々必要といわれる。近年は農業の合理的経営が進められ、各地で総合開発として灌漑施設の建設が進められている。人為的に作った水源の水を利用する灌漑法を人口灌漑という。
灌漑農業  乾燥地などの作物栽培や水稲などのように特に多量の水を必要とする場合に灌漑用水を使用して行う農業。一定期間中耕地に水を湛えた中で栽培する水稲や、ステップや砂漠などで作物を栽培するためにはその所為異句を促すために計画的に耕地に給水する。これを灌漑農法という。
例;東南アジアの水稲栽培、米インペリアル谷の果実栽培、豪州の掘り抜き井戸による牧草栽培、地中海沿岸の米作、瀬戸内沿岸の溜池灌漑など。
灌漑法  灌漑用水を供給する方法。灌漑期間中常に給水する連続給水法、三日給水して二日休止する間断給水法、水田を数区に分け各々区分された水田を時間的に循環する番水などがある。また、給水する位置によって、根に向かって側面から給水する堰留法・畔間法、上方から根に給水する貯留法・水盤法、溢流法・散布法、下方から根に給水する導管法などがある。
灌漑用水 水源は河川・湖沼・井戸・掘り抜き井戸・泉・溜池・運河などを利用。日本では川の利用が多く水田面積の68%、溜池利用がこれに次ぎ18%。
間欠河川
(間欠流)
 
降水時には水が流れているが、ふつうは水流の無い川のこと。砂漠などの乾燥地にはこの川が多い。日本では火山斜面の小さな谷によく見られる。例;武蔵野台地の不老川(トシトラズガワ)
感潮域  河口では下げ潮時には引き潮と共に河川水が海域に流出するが、上げ潮時には逆に潮位上昇と共に海水が河口から上流に浸入。侵入する海水の影響を受ける範囲を感潮域という。感潮の上限は日々変化し潮差が大きいほどまた河川流量少ないほど長くなる。
嵌入蛇行
(穿入蛇行)
深い谷を刻み蛇行している川の流路のこと。土地が隆起すると古い蛇行を持続し下刻してできる。高知の四万十川、紀伊半島の熊野川や日置川、日高川などが好例。
峡谷 深くて幅の狭い谷。流水の下刻作用が激しい場合に造られる。谷壁は垂直に近く、通路もできにくい横断形で、幼年期の唐が造るところから幼年谷ともいう。例;米コロラド峡谷、黒部峡谷、天竜峡
クリーク 低湿地の排水のために設けた溝。耕地の周囲に作る。筑後川下流・利根川下流の水郷地帯に多い。揚子江下流・華南・珠江下流域にも例がある。多くは低湿であるために溝を掘り排水用水路とし、土を盛り上げて耕地としたり水田の客土としている。また、排水ばかりでなく灌漑用水・舟運水路ともなる。
cf.この語は米では河川の支流を意味し、豪では小川・細流、英では海や湖・河岸の小さな入江を指すので訳出の際は注意を要する。
溝渠 灌漑用水を田地に導く溝。川や湖から水田に水を引く場合に作る。筑後川下流域は代表的な、溝渠が発達している地域。
硬水 100cc中カルシウム・マグネシウムなどが5mg以上含まれる水をいう。石灰岩地方などには硬水が多い。味が悪く飲料水や洗濯用水としては不適。工業用水としてもやや難。灘の宮水のように多少の硬水は却って酒の醸造に適する。
洪水 豪雨などによりふだんの何十倍〜何百倍もの水が流れる現象。溢れる・溢れないとは別にいう。大部分降水によるが、山崩れや雪崩によるケースもある。
高水敷 河道のうち、ふだん冠水せず洪水時のみ流水が流れる部分をいう。通常時はグラウンドや公園に利用されることが多い。
後背湿地 三角州や氾濫原では川の流路の両側には自然堤防が発達して比較的高燥であるが、その内側には低湿地が広がり集落に続くことが多い。洪水時溢れた水はここに溜まり湿地・湖沼となることが多いが、このような湿地を後背湿地という。一般に河道に向かい逆傾斜で排水が悪い。構成は細粒。日本ではシルトや粘土で形成されることが多い。例;遼河、揚子江、信濃川、北上川の氾濫原
湖沼 周囲を陸地に囲まれた窪地の中にあって直接海につながっていない静止した水塊。そのうち、沿岸植物の侵入を許さないような深さのものを湖、沈水植物が繁茂するような浅いものを沼という。挺水植物が繁茂するものを沼沢という。一般に湖は5mより深く、沼は1〜5m、沼沢は1mより浅い。この区別に限らず習慣的に湖・沼の名が冠されている所もある。
湖脚
 湖尻とも。湖水が外へ流れ出すところ。多くは交通上重要な位置にあるので工業が発達することも。例;琵琶湖の大津、諏訪湖の岡谷、レマン湖のジュネーブ。
湖頭
 湖脚と反対側にあり多くの場合主な流入河川の流入地点にあたるところ。湖脚と共に都市が発達する例が多い。例;霞ケ浦の土浦、ミシガン湖のシカゴ。
陥没湖
 陥落湖とも。陥没により生じた湖。多くは断層運動による。例;琵琶湖、諏訪湖。また、火山地方には釜状陥没によりカルデラ湖ができる。
河跡湖
 元の川の一部が堰きとめられ湖となったもの。蛇行した川の屈曲部が破れ直流すると元の川道が残されて三日月型の湖ができるので三日月湖または牛角湖ともいう。石狩川・ミシシッピ川に沿う平野に多い。
海跡湖
 昔の海の一部が湖となったもの。ふつう沿岸洲の発達により海の一部が外海と断ち切られ生ずる。また、隆起運動により陸地ができる際に海底の窪地が海水を湛えて湖となることも。例;カスピ海、宍道湖、サロマ湖。
火口原湖 火口原に水を湛え生じた湖。例;箱根火山の芦ノ湖、赤城火山の大沼、榛名火山の榛名湖。
火口湖 火口に水が溜まり生じた湖。一般に小さくて深い。例;赤城火山の小沼、蔵王火山の御釜、吾妻火山の五色沼。
火口瀬
 複式火山(古い火口の中に新しい火山が噴出したもの)で、火口原の水が外輪山を横切り流れ出るところ。外輪山が侵食受けて深く刻まれ、峡谷を成す。例;箱根火山の早川口、阿蘇火山の白川口。
淡水湖 水中に含まれている塩類が1リットル中500mg以下の湖。排水路をもつ湿潤地域の湖の大部分はこれに属する。
汽水湖 淡水と海水が混合した低塩分の水を汽水といい、ふつう塩分含有量17%以下であるが、これは絶対的なものではない。このような海水と淡水の中間性の塩分を含む湖を汽水湖という。海岸地域に多く、水道により連絡するか荒波の侵入できる状態にある。例;浜名湖、八郎潟、サロマ湖。
堰止湖 水流の一部が山崩れ・地滑り・火山噴出物(溶岩・泥流)により堰きとめられて生じた湖。火山噴出物による福島県の檜原湖や富士五湖、火山体による栃木県の中禅寺湖、火山爆発の際の泥流による上高地の大正池、河川の運搬堆積物による印旛沼や手賀沼などがある。
合流点 落合・川合・出合とも。二つ以上の河川が合流する地点をいう。交通の要所となり各河川流域の異なる生産物が集められるので早くから集落が立地したところも。現在落合・川合など地名になっている所も。外国でもコブレンツの地名は川の合流点を意味する。地形的には合流点で支流が滝・早瀬をもつ合流の仕方とこれらをもたない合流とがある。

各行へ →    か        


▲川の科学表紙   ▲サイトトップ