1995.7.25日本テレビ/東映
キャスト
松村信兵衛/高橋英樹 おぶん/畠田理恵 重助/織本順吉 仁平(左官・長屋住人)/岡本信人 おしげ(仁平女房)/前沢保美 末吉(魚屋・長屋住人)/西山浩司 長屋差配/出光元 およし(丸源女将)/田中好子 丸源常連/ダチョウ倶楽部 香代/藤吉久美子 沖石主殿/松村雄基 折笠五郎左衛門/谷啓 折笠道場師範代/有川正治
山本周五郎の「人情裏長屋」を映像化したスペシャル作品で、筋はほぼ原作をなぞる。
裏長屋に暮らす浪人・松村信兵衛は人の難儀を見捨てておけぬ人情家で、長屋衆が滞らせた店賃を内緒でそっくり肩代わりしたりする。金の出所は道場破り、ずば抜けた腕前をたっぷり見せ付けたあと、やむなく引っ張り出された道場主の顔を立て「参った」をして「運上金」を袂に入れる。
この日常に立つ波風ふたつ、夜鳴き蕎麦屋の爺さまが剣術道場の若い連中にひどい狼藉を受ける事件、いまひとつは信兵衛を見込んだやもめの浪人が赤子を置き捨ててゆく件。これを機に先生の生活は一変、道場破りをやめ爺さまに代わって屋台を担いで汗を流して働き、浴びるほど食らっていた酒をぷっつりと断ち、まだ這いもせぬ赤子を男手ひとつで育て始める。子の成長とともに季節はめぐり、立ったといっては長屋衆を集めて見せびらかす日々が過ぎる。そして或る日帰った先生に、おぶんは青い顔をして来客がある旨を告げる。部屋には、りゅうとしたなりに身を包んだ、鶴坊の父が待っていた。
ロケ地
・子を捨てていった沖石浪人を探し回る先生、武家屋敷街は妙心寺大心院前路地、福寿院へ通じる細道から見たアングルもある。このあと東海庵南東角を曲がり、衡梅院北東角を南へ消えてゆく。信兵衛をつけてくる香代は同じ路地、蔵の海鼠壁前に立つ。
・信兵衛の回想、竹馬の友を上意討ちした門、金戒光明寺三門下(国元か江戸表か不明)。
・重助爺さんに謝罪にゆく折笠道場の門弟たちがゆく道、大覚寺大沢池堤。
・泣く鶴坊をあやし夜の散歩に出た信兵衛に斬りつける香代、大覚寺大沢池堤際に「長屋の端っこ」アレンジの壁などあしらい。
・実父に抱かれて行ってしまう鶴坊を陰ながら見送る先生、大覚寺大沢池堤。
・エンディングに被せた長屋の日常、去った子を思い出しつつ釣り糸を垂れる先生、大覚寺大沢池堤。
*「人情裏長屋」との大きな相違は、已む無く友を上意討ちにした苦い「過去」を入れてあるのと、おぶんに求婚せず長屋暮らしが続く二点。前者は原作にある信兵衛の厭世的態度を裏打ちする逸話ともとれるが、後者は小説の勘どころをはずすように思われ、少しいただけない。シリーズもので他の設定も入れてある「ぶらり」と違い単発作品なのだし、「きめどこ」を決めて終っても良かったのではと思う。尺ゆえか間延びしたきらいはあるものの、山周作品らしいムードは存外よく出ていた。
参考:ぶらり信兵衛道場破り
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