1973〜1974年 フジテレビ/東映
キャスト(十六店関係レギュラー)
松村信兵衛(浪人)/高橋英樹 鶴之助(信兵衛の預かりっ子)/上屋健一 おぶん(信兵衛の世話を焼く娘)/武原英子(-26話)、葉山葉子(27話-) 重助(おぶんの祖父・夜泣き蕎麦屋)/大宮敏充(-26話)、藤原釜足(27話-) こふね(芸者)/浜木綿子 おきみ(こふね妹・丸源看板娘)/紅景子 源次(酒肆・丸源主人)/東京二 竜二(丸源従業員)/東京太 乙吉(大工)/小島三児 おまさ(乙吉女房・八人の子持ち)/有崎由美子 平七(長屋差配の老人)/木田三千雄 おあき(差配の若妻)/新山真弓 平八(差配の弟で質屋・セミレギュラー)/山村弘三 以三(岡っ引)/深江章喜 金太(駕籠舁きの兄貴分)/柳沢真一 銀太(金太の相棒・長屋で同居)/渡辺篤史
主題歌「信兵衛長屋」そのままの情景が展開される人情劇、山本周五郎の短編「人情裏長屋」をベースに、他の短編や落語ネタも取り混ぜて様々な人間模様が描かれる。
「おちぶれて来る人の寄り場所」たる十六店や丸源に「居させて貰う」立場を貫く浪人の信兵衛さんは、いつもいる長屋衆にはもちろん、やって来ては去るひとときの隣人にも篤いケアを施す。助けるといっても畢竟要るのは金なので、捻出には剣技を活かして道場破りをするのだが、あくまで長屋衆には秘密なため先生は弱っちくて情けないお侍で通っていて、腰の刀も竹光(質入れ中)。また道場破りは追い詰めるもけして勝たず、「参った」して面目を施させ袖の下を貰うユニークな設定。「頼もう」と呼ばわる際は「拙者これまで各地を遍歴し、念流一刀流梶派新蔭、無念流鹿島神流あらゆる師範と試合を致し未だ曾て敗北したことのない修行者でござる」と縷々口上を述べ、「取手呉兵衛」と名乗る。取手うじがブラックリスト入りしている様子も出てくる。
先生をとりまく長屋衆も個性的、鶴坊の世話もしてくれるおぶんは先生に岡惚れしていてほぼ毎回ぶっ飛んだ芝居仕立ての妄想を展開する。彼女の祖父の重助爺さんは基本的に温厚な人情家だが、とんでもねー頑固じじいのときもあって味わい深い。この二人は途中でキャストが代わるが、個人的には先の人選がお気に入り。芸者のこふねは先生の真の顔を知る唯一の存在だが、皆にそれを開陳することはせず胸三寸におさめる、戦友というか共犯者的というか、とにかくツーカーの大人のつきあいだが、慕う心はいつもはぐらかされっぱなしでここんとこセンセは狡い。こふねの妹・おきみは丸源の看板娘で、おきゃんな金棒引き。丸源の主・源次は事なかれ主義で「関わるな」が口癖、従業員の竜二はお調子者で訛りが抜けない。大工の乙吉はヌボーっとした風貌の大男、「女のいない国」を夢想したりする八人の子持ちで、口喧しい女房・おまさの尻に敷かれっぱなし。長屋の差配は年甲斐もなく若い女房を持ち、焼餅を焼く姿が大笑い。駕籠屋コンビは長屋衆の代表格で、じきに大勢に流されてセンセを糞味噌にけなしたりもするが、もちろん情の深い気のいい奴ら。岡っ引の以三は女房に逃げられたやもめで赤子を抱えていて、立場上皆に煙たがられる役回りだがそれも無理からぬ粗暴さ加減は絶妙、赤子を背負ったしょぼくれた姿が妙にハマる。
十六店の所在地は「木挽町」、界隈を表現するために選定された日常の風景は、神社境内と渡し場のある川端、およびこふねと逢う橋。ロケ地には上賀茂神社ならの小川付近、広沢池東岸、神泉苑が使われているが、劇中明瞭な設定は示されていない。
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