時代劇の風景 ロケ地探訪
仁和寺 五重塔
御室の塔は近世のもので、法隆寺の塔などとは趣きを異にする。
一般的に塔は、上層部が小さくなるように作ると安定感があるとされる。法隆寺の塔では、組み物の設計上のこともあって、初重とてっぺんの大きさは倍ほど違う。時代が下るにつれ施工方法も変わり、塔の各層の大きさは等しくなり聳え立つタワーとして作られるようになった。時代劇でしょっちゅう出てくる寛永寺の塔もこの屹立傾向のものなので、御室の塔は江戸の情景を表現するのに適しているといえる。
初重西面には梵字の額が掲げられている。
必殺からくり人「鳩に豆鉄砲をどうぞ」は、スナイパーとなって妖怪・鳥居耀蔵を狙う夢屋時次郎のお話。時次郎は、女の命を救ってくれた蘭方医が蛮社の獄で横死したのを見て、指揮した鳥居の暗殺を企てるのである。仲間と訣別し、鳥居が参詣にやってくるのを塔に籠り待ち続ける時次郎だが、スコープにターゲットを捉え発射した弾は、飛び出した一羽の鳩に阻まれてしまうのだった。その「上野の寺」がここで、実際にこの塔が使われたことが見下ろしのアングルで判る。
必殺シリーズでは、もう一つ印象的な塔使用例がある。映画必殺!III 裏か表かで、主水をマズい立場に追い込むのに利用され墜死する娘のシーンである。塔西の石畳に無残な死体が映し出される、凄惨にして印象的な場面。
仲代達矢が隻眼隻手の怪剣士を演じた丹下左膳−剣風!百万両の壺では、こけ猿の壺をめぐって起こる大騒動のラスト、斬り抜けた左膳は塔に駆け込みバルコニーから愚楽の悪企みを大音声で呼ばわる、その塔はここ御室の塔である。
おしどり右京捕物車「鞭」では、野洲の万蔵の倅が立て籠もる塔で、北町の虎・神谷右京は彼を捕縛し獄門台に送ったことで万蔵の恨みを買い、半身不随の体にされてしまうことになる。
翔んでる!平賀源内「飛べ飛べ飛行機」では、水煙を盗まれる上野寛永寺。
塔は、そのものがドラマの舞台となるほか、西の石畳と一緒に市中の情景としても頻繁に使用される。林の脇に茶店がセットされたり、縁日が演出されたくさんの屋台が出ていたりする。石畳での立ち回りもあり、初重のみ写し市中の一角とする例もある。徳川風雲録 御三家の野望では塔前で刺客が出るが、夜間撮影で初重のみ見えている。こうした使われ方の際、識別ポイントになるのは梵字の額である。
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御室桜林から 左/冬、右/夏 |
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御室桜林から 晩春 ↑早暁、↓昼前 |
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塔が御室桜から上部を覗かせるアングルが、吉右衛門版鬼平犯科帳のエンディングに使用されている。
境内のどこからでも塔はよく目立つので、鬼平以外にも塔の一部が映り込む例はたくさんあるが、花期以外のものが多い。
おかめ桜が咲くと、樹下には床机が出され迎え支度がされる(年によって違うようです)。むせかえるような香りを放つ桜花のもと、わんさと花見客が詰めかけ、早暁でもない限り、ドラマを撮るどころではない賑わいなのである。
→仁和寺表紙
*ロケ使用例一覧 ・1989年以前 ・1990年以降
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