時代劇の風景 ロケ地探訪
仁和寺 林と塀


御室桜林 西望 夏 御室桜林から五重塔 冬
御室桜 開花時

 御室桜は、京洛の桜が散った頃に咲き出す里桜。低くこんもりと茂る特徴のある姿で、古来愛でられてきた。林は中門をくぐって左手にあり、整然と並んでいる。華やかな花期、葉をみっしりと茂らせる夏、樹形が露わになる冬と、四季それぞれによい景となる。
 天罰屋くれない闇の始末帖の初回では、天罰屋チームと紅がはじめて出会う場所。知人が謀殺されたことでひとり調査する紅の前に、被害者から天罰を依頼されていたチームが手を引けと詰め寄るくだり。林の間から次々とメンバーが現れ、紅を囲んでゆく緊張のシーンがここ御室桜林の中。
鬼平犯科帳「老盗の夢」は、年若い女に溺れきった老盗賊・蓑火の喜之助が、女と老後を過ごすためのまとまった金を作るため江戸でのおつとめを思いつく話。京を発つ彼がゆく道が、塔をバックの御室桜林。
暴れん坊将軍 III 「三つ葉葵は地獄の紋章!?」では、綿引勝彦演じる堅物の南町同心が銃撃されてひっくり返る林がここ。導入は観音堂前で、林へ移動する好例。


五重塔付近の林  左/冬、右/夏

 茶店の裏手、塔の南には疎らな林がある。落葉樹が多く、林床は暑い時期には草が旺盛に繁茂する。樹間からはちらちらと塔がのぞく。
剣客商売「まゆ墨の金ちゃん」では、大路恵美演じる佐々木三冬が、お化粧侍・三浦金太郎と立ち会う場面がここ。三冬が段違いの腕を見せ付けられる結果になる。
八丁堀捕物ばなし「朋輩」は、渡辺哲演じる熊さんみたいな豪気な同心・小室が、親友を思いやる心を利用されてしまうお話。凶盗の仲間に加われと強要される双龍寺裏の森がここ。小室は狩谷ら同僚のはたらきで危地を脱し、この林間でラス立ちが繰り広げられる。足もとの草深さがよい効果を上げている。


東塀 内側

 中門から北の仁和寺の塀は、瓦を練りこんだ土塀。よく茂った叢と、ほっこりした壁面のテクスチャがよく合い独特の雰囲気。九所明神や林間が使われる際などに、背景としてよく映りこんでいる。
 御家人斬九郎「捨値五両」では、仇討ちに関わってしまった斬九郎がその藩の目付と協議するのがこの塀際。
剣客商売「勝負」では、秋山大治郎との勝負で裏工作をしたと疑われた剣客との再試合があるが、小兵衛がぷんぷん怒りながらその試合を見遣るのが塀のそば。居並ぶ重職たちにきつい言葉を吐くのが見られる。


西塀 内側

御殿北塀通用門 御室桜の林が尽きる西側の塀は、五本線入りのクリーム色。上写真右奥は宸殿の北塀。西塀は半ば土に埋もれたかたちで、際には立ち木が沿う。塀外は崖になっていて、竹林の頭が塀越しにゆらゆら揺れている。
 剣客商売「越後屋騒ぎ」では、観音堂前でさらわれた幼児が駕籠に押し込められているのが上写真左とほぼ同じアングルの塀際。このあとは随心院の土塀にスイッチする。
左写真は御殿北塀の通用門。出雲の阿国で、秀吉の御伽衆・大村梅庵の寺である大坂の宝珠院裏口として使われた。


北塀 外側

 境外の塀も使われる。北にある聾学校との境の道は舗装された車道。塀際には車をとめて休んでいるドライバーがよくいる。この道を西に行くと、八十八ヶ所の霊場前に出る。
外を使うときは街道設定が多い。内側だと木がいっぱい生えているのと草深いので、道には見えないのである。
 三隅研次監督の桃太郎侍では、政争の渦中にある兄を助けて身代り芝居の、雷蔵演じる「若殿」桃さんが騎馬でゆく街道筋がここ。
平幹二郎の風車の浜吉捕物綴では、江戸へ帰ってきた浜吉が、元子分の岡っ引にしつこく復帰を迫られつきまとわれる道が塀際。
市川崑監督の映画どら平太では、頬っかむりの役所広司の望月小平太が、刺客の頭巾侍三人をやり込めてブチ倒し「健士隊」でないと知る「或る小藩」の城下町。


→仁和寺表紙

*ロケ使用例一覧 ・1989年以前  ・1990年以降


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