時代劇の風景  ロケ地探訪  

大覚寺

− 有栖川 −

 有栖川は大覚寺北西で御殿川を分流するほか、北東で大沢池に水を分けている。よって当然のことながら水量は減じ、大覚寺東塀沿いに南下する部分はちょっと深い溝、といった態を示す。一級河川の本流としては情けない姿なのだが、この様を利用して撮影が行われる。
 例えば夜、五社明神脇のこの溝状の有栖川のほとりに提灯を持って歩く町人を配するともう現代の風景とは思えない風情である。こうなると野面積みの護岸も一段と映える。
川は大覚寺の塀が尽きるあたりで大沢池のオーバーフローを戻し、御殿川を戻す。寺域を出たあとは太秦のほうへ流れてゆく。源流部河川敷といい大覚寺寺内といい、このささやかな小川で幾本の作品が撮られたか考えると感慨深いものがある。
五社明神脇を流れる有栖川
左手の祠は五社明神のもの
 有栖川が使われる際の設定は、江戸市中が多い。
場面としては、人がさらわれたり辻斬りが出たりする寂しい人気の無い路地などというケースに、五社明神脇の河畔がよく用いられる。
またこの河床部分は、追っ手から逃れるシーンによく使われる。掘割という設定だったり、江戸城の下水割だったりもする。夜のシーンも多い。必殺仕事人でのかんざしの秀の出陣シーンに使われるところ、と言えば通りがよいだろうか。秀は御殿川のほうもよく走っている。
 必殺仕事人「半吉は女の愛で立ち直れるか?」では、薩摩藩邸から帰された半吉が毒婦の姦計に陥り、志賀勝演ずる怖い警護役に斬られ壮絶な死を遂げるくだりで河床が印象的に使われた。半ちゃんはかなり長いこと河床を追い掛け回された挙句、ばっさり斬られる。
映画・必殺!主水死すでは、葛西衆の通る、江戸城の芥溜へ通じる下水として使われた。この際は有栖川に板を渡し大きな「蓋」を被せ地下道を演出している。
 辻斬りや人さらいの出る寂しい道、の例は長七郎江戸日記「風流山王祭」で商家の若旦那が白ずくめの怪しい集団に殺される夜道、暴れん坊将軍2「吉宗婚約、五郎左は家出!?」で辻斬りの出る夜道、続三匹が斬る!「上様の茶は甘いかしょっぱいか」で茶頭接待に腐心する水口藩家老が久慈慎之介を含む血気の若侍たちに襲われかかる道、鬼平犯科帳「蛇の目」で蛇の平十郎が放った刺客が長谷川平蔵を襲う道、江戸中町奉行所「死を待つ男の危険な賭け」で商家を強請った南町同心が拉致される道、付き馬屋おえん事件帳「吉原恋模様・身請話に泣く女」でワルの越前屋に啖呵切ったおえんが帰途拉致される道などがある。
大覚寺東塀沿いを流れる有栖川 五大堂観月台は有栖川に張り出す
 服部半蔵 影の軍団「乱入!女湯の24時」では雉の湯が包囲を受けていると知った半蔵が急ぎ戻る道として使われている。これなどは急な事態を受けて裏道を急ぐ、というパターンになるだろうか。
他にも暴れん坊将軍2「ちゃんを返して、将軍様」で人質に取られた子供を解放しに急ぐ徳田新之助が通る道なども同様の効果を狙ったものと思われる。場所や撮り方は「寂しい道」とほぼ同様。
木戸の下は大沢池溢水口 左手から御殿川が合流

 新必殺仕置人「訴訟無用」では走り役の正八が御殿川流れ込み付近の掘割に横っ飛びに飛び込んで尾行を開始するシーンが撮られた。尾行・逃走に使われた他の例は必殺!THE HISSATSUで六文銭から逃げる秀、江戸中町奉行所「私怨無用の闇始末」で堀を伝って逃げる多吉などがある。

 大沢池溢流付近で撮られる数々の場面も印象深い。大抵は夜で、ざあざあと勢いよく落ちる池水が白く照らされ緊張感を盛り立てる。
神谷玄次郎捕物控「闇の穴」では、ほぼ夫婦だった料理屋よし野の女将・お津世の急に戻ってきた実は泥棒の亭主と神谷が大立ち回りを演じる。
必殺仕事人・激突!「八百屋お七の振袖」では溢水口付近から秀が大量の水を振りまきながら飛び出てくる。
幕府お耳役檜十三郎「闇の裁き!小判に埋もれて死ね」では溢水口付近でお耳役三人衆の大立ち回りが行われる。

有栖川
■ 大覚寺 表紙

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