時代劇の風景   ロケ地探訪

山科随心院

− 土塀 −

随心院裏土塀 北東角
 このような半ば崩れかけた土塀は、少し前まではどこにでもあったように思うが、昨今はどこも綺麗に作りなおされ、気がつけば貴重なものとなっている。
ここ随心院でもほぼ真新しい漆喰壁が続くが、本堂裏手に何箇所か崩れかけた塀が残されている。というか、残して下さっているのだろう。敷地北側にある駐車場から建物のほうへ行かず裏手に回ると、その塀がある。
北東角 南から 北東角 北から
北東角 瓦 東面
 北東角の塀周辺には比較的広いスペースがあり、狭い道に面した南東角より撮影が容易であると思われる。ゆえに北東角の土塀が使用されるときは、駕籠を仕立てた行列が通ったり、派手な殺陣が繰り広げられたりというものもある。
 鬼平犯科帳7「寒月六間堀」では、息子の仇を狙う老いた武士が、相手の乗った駕籠によたよたと追いすがるシーンで使われた。
剣客商売「御老中暗殺」では、田沼意次のお忍びの駕籠が表通りを避け江戸市中の裏道をゆく、という設定で使われた。
長七郎江戸日記「長七郎立つ!江戸城の対決」では、陰謀に使われたご落胤の少年が塀を乗り越えて逃げてくるのを助けてやる長さんの姿がある。
鬼平犯科帳8「鬼火」では、怪しげな浪人を尾行する鬼平の密偵・彦十と粂八の姿が見られる。設定は湯島天神から凌雲寺への道。
陰陽師 安部晴明「王都への恨み」では、野盗が出る都のイメージに使われた。
随心院土塀 東面 北望

 東面の土塀は、くすんで痛んだ部分が、新しく作り直された部分をはさむ形となっている。
この部分が使われた印象的な作品は鬼平犯科帳6「五月闇」で、有能な盗賊改の密偵・伊三次が、盗賊だったころ女の事でトラブルのあった強矢の伊佐蔵に刺され深傷を負うシーンに使用された。倒れ、泥濘に塗れる伊三次の姿が長い尺をとり丁寧に描写されている。原作設定は御成街道。
同じ雨のシーンでは、壬生義士伝(2002TX)で、新選組に入隊した吉村貫一郎が、歓迎の宴のあと斎藤一に斬りかかられるくだりで使われている。斎藤を演じる竹中直人の獣じみた殺陣が見もの。

南東角 南面 西望
南面 東望 南面からのぞく鐘楼
 南東角に残る土塀の角には照明の鉄柱が立ち、塀の裾には塩ビパイプが通っている。また、道側となる東側はともかく南側は竹薮が繁り入るのをためらう狭さと暗さである。現代の施設もあり、こちらの使用例は少ないものの、先に述べた剣客商売「御老中暗殺」の別の場面、一橋家の密命を受け田沼暗殺を企図する田沼の家来・飯田平助の後を尾ける弥七のシーンで使われている。手前に竹林を映りこませて余計なものが画面に入らないように工夫されている。路地の暗さ加減が己の所業に悩む飯田平助の心情をよく表しているように見受けた。
清滝権現 小町文塚 清滝権現への道 土塀付近の林
 土塀のある境内裏手には小町文塚や深草少将ゆかりのカヤの大木、摂社などがあり、林を隔てて民家と接している。建て込んだ環境ながら昼なお暗い静かな環境で、野鳥の声がこだましている。時代劇撮影スポットとしてはもちろん、小町伝説を偲ぶよすがにもこのままであって欲しいと願う。

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