西寿寺は洛北・鳴滝の地に建つ念仏の道場。 甲賀の地より勧請した丈六の阿弥陀を祀り、寺号を泉谷山とする。 周山街道を高雄に向って進み出す地の山麓にある閑静な佇まいの小寺で、京都の奥深さを再認識させられる。 |
山門 | 参道 |
簡素な山門をくぐり石段を登ると、変わった形の御堂が見える。見晴らしのよい丘の上に建つ本堂はのびやかに翼を広げる。清楚に整えられた境内は背後に緑濃い山を控え、森閑としている。 もうこの山門から、印象的な使用例がある。必殺商売人「夢売ります手折れ花」は北町与力の父を謀殺された娘・菊の仇討ち話。これが「血雨傘朱菊仇討」という人気の黄表紙通りに進行するというミステリ仕立て、与力殺しに加担したワルたちは恐れおののく。黄表紙を闇で発行する菊の叔父が住持する寺に西寿寺が使われていて、父母の墓に香華を手向けに来る菊と正八が出会うシーンが山門付近で、墓地もここのもの。叔父が殺されたあと、決死の覚悟で出陣する菊に、危ないと取り縋る正八の哀切なシーンは夜に撮られている。 |
本堂 |
石段を登りきると、上下のバランスの妙が美しい本堂が現れる。画面にこれが映し出されるととても印象的。 五社英雄アワーとして放送された新・三匹の侍「訣れの鐘が鳴っている」は西寿寺ロケの好例。参道から本堂、墓地までたっぷりと使われている。タイトルの「鐘」はヤクザに父を殺された悔しさを鐘を撞いて発散する子供のエピソードから。三匹のなかでいちばんコワい顔の安藤昇演じる流右近が遺された母子に深く関わり、ワルをやっつけて本堂大屋根を背に去ってゆく。 |
参道見返り |
西寿寺ロケは必殺シリーズの頻度高め。 仕掛人、仕置人、仕留人、仕事屋稼業、仕置屋稼業、新仕置、商売人、うらごろし、仕事人、富嶽百景と代々の使用例がある。 暗闇仕留人では、「なりませぬ」の妙心尼の寺・玉泉院なので最も頻度が高い。石屋のもといた寺として流用もされた。翔べ!必殺うらごろしでは、怪力系伝統技の階段落しが見られる。 ここが使われるときの設定は、関八州など地方のことも多い。必殺仕置人「備えはできたいざ仕置」では、旗本に弄ばれ発狂した娘を療養させる郊外の寺として使われた。同「疑う愛に迫る魔手」では元盗賊のかんのん長屋の大家・喜助の女房の供養をする八王子の寺。高橋英樹が陰の諸国見回役を演じた隼人が来る!「子連れ街道」では高遠藩領、子連れ狼(北大路版)や水戸黄門でも、当然ながら地方設定。 |
鐘楼 | 墓地への坂 |
鐘楼の使用例で印象的なのは前述の新三匹の侍だが、翔べ!必殺うらごろし「母を呼んで寺の鐘は泣いた」では、鐘がひとりでに鳴り出すという怪異現象が起こり騒然となるくだりに使われた。同「木が人を引き寄せて昔を語る」では、悪辣な手段で子供をさらった田川藩家老たちを仕置する寺として使われ、家老を誘き出した正十がかさかさと鐘の上に登ってなりゆきを見ている。 墓地や、そこへ通じる道もよく使われる。必殺仕掛人「秋風二人旅」では梅安の師匠・津山悦堂の墓所、暗闇仕留人「過去ありて候」では、大吉の運命を狂わせた毒婦と再会してしまうシーンで印象的に使われた。 墓地への道脇には十三重石塔が立つ。この塔はもと参道石段の左手にあったもので、必殺仕事人や必殺からくり人富嶽百景殺し旅では石段脇に映っている。見上げの、つよく印象に残るアングル。 |
境内西端の石塔 | 庫裏と井戸 |
墓地の丘の崖下にある石塔には幽霊が演出されたこともある。お祭り銀次捕物帳「幽霊大泥棒」で、本堂で幽霊の供養が行われたあと、田村の旦那の悪ふざけで仕込みの「幽霊」の男女が塔前にいるのを本堂から見る趣向。石塔は暴れん坊将軍でも使用例がある。 京都市右京区鳴滝泉谷町 |