霊場めぐりは、麓にある一番目のお堂からはじまり、山を登ってゆくことになる。木の根道の坂を辿る、尾根道である。
お堂は、ひとつひとつはさほど大きなものではない。仕様は似通ったものが多いが、たまに六角堂や懸崖のものもある。真新しい掃除用具が備えられていて、信仰の厚さを知ることができる。これらの諸堂は、ほんとうに八十八ヶ所ある。
お堂は、すこし市街からはずれた、祠や墓地があったりするところという設定でよく使われる。
痛快活劇の風「忍びの館」では、事件の後味わるさに忸怩たる思いに沈む新十郎につきまとう忍者マニアの丁稚を諫めるかがりの姿が堂前にある。モノクロで判りにくい画だが、前面の柱に添えられた石柱と鉄のバンドでそれと知れる。
江戸を斬る 梓右近隠密帳「盗人ざんげ」は、由井正雪の陰謀で大久保彦左衛門の神君拝領の陣羽織が盗まれるというお話。実行犯は、女房の薬代欲しさが動機の元盗っ人。当の女房に責められた盗っ人が、話を持ちかけてきた男に返却を懇願するのがお堂の前。まわりの草深さがうまく使われている。
新・三匹が斬る!「金儲けのイロハ指南に賭けた首」では、財政逼迫の八戸藩を救うべく鴻池から遣わされた算勘指南の男が刺客に遭うのを助ける殿様の姿が、堂前に見られる。この設定は街道筋。
これらは、林を従えたお堂の使用例。
見晴らしの良い丘の上のお堂は、翔べ!必殺うらごろし「水探しの占い棒が死体を見つけた」で、ダウンジングの棒を振り回して温泉探しの正十が、死体を見つけてしまうくだりで使われた。水飢饉の村の水探しの棒を弄んでいたくせに、欲深正ちゃんは「碌なモン見つけへんのや〜」とべそをかくのであった。この作品の場所の設定はよくわからないことが多いが、関八州のどこかと思われる。
丘の上とはっきり判る例は他にもある。必殺仕事人「この世の地獄は何処にあるのか?」は、将軍の日光参詣に事寄せて冥加金を搾り取る大目付の非道に耐えかねた粕壁宿の民からの血を吐くような「依頼」が仕事人たちに届くという話で、依頼状が仕込まれる馬頭観音の御堂に、明るく開けた丘の上に建つお堂が使われている。この際も大目付の追求の手が伸び、村人が虐殺される騒ぎが起こる。接触に入った調査役の半ちゃんは、賽銭箱の陰に隠れて難を避けている。
これらの例は、たしかに霊場のお堂を使っているのだが、なにしろ八十を超える数のお堂ゆえ、なかなか完全な特定には至らない。
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