時代劇の風景  ロケ地探訪

御室八十八ヶ所
 ( 御室霊場 )

丘上のお堂 お遍路さんになって四国の霊場を巡礼することに、ひとは強烈な憧れを抱いてきた。しかしもちろん行けない人はいるわけで、その渇望を満たすための装置が考え出されることもある。
霊場各所から砂を持ち帰り、袋に入れ踏んで回る催しは現在も行われているが、これは一室で行うコンパクトなもの。御室の山中には大規模な代替システムが設けられている。江戸中期、まだ庶民が気軽に四国巡礼などできなかった頃に仁和寺門跡のプランで作られたものという。
寺の北に作られたその施設は四国各霊場の土を礎にして諸堂を丘や崖地に配したミニチュアで、中には鎖を掴んで上がるところもあったりして、十二分に巡礼気分を味わえるようになっている。現在はハイキングコースとしても親しまれている。巡拝コースは約3km、杉木立の中にお堂が点在する。けっこうな高さまで登るので眺望も素晴らしい。


 霊場めぐりは、麓にある一番目のお堂からはじまり、山を登ってゆくことになる。木の根道の坂を辿る、尾根道である。
お堂は、ひとつひとつはさほど大きなものではない。仕様は似通ったものが多いが、たまに六角堂や懸崖のものもある。真新しい掃除用具が備えられていて、信仰の厚さを知ることができる。これらの諸堂は、ほんとうに八十八ヶ所ある。

 お堂は、すこし市街からはずれた、祠や墓地があったりするところという設定でよく使われる。
痛快活劇の「忍びの館」では、事件の後味わるさに忸怩たる思いに沈む新十郎につきまとう忍者マニアの丁稚を諫めるかがりの姿が堂前にある。モノクロで判りにくい画だが、前面の柱に添えられた石柱と鉄のバンドでそれと知れる。
江戸を斬る 梓右近隠密帳「盗人ざんげ」は、由井正雪の陰謀で大久保彦左衛門の神君拝領の陣羽織が盗まれるというお話。実行犯は、女房の薬代欲しさが動機の元盗っ人。当の女房に責められた盗っ人が、話を持ちかけてきた男に返却を懇願するのがお堂の前。まわりの草深さがうまく使われている。
新・三匹が斬る!「金儲けのイロハ指南に賭けた首」では、財政逼迫の八戸藩を救うべく鴻池から遣わされた算勘指南の男が刺客に遭うのを助ける殿様の姿が、堂前に見られる。この設定は街道筋。
これらは、林を従えたお堂の使用例。
 見晴らしの良い丘の上のお堂は、翔べ!必殺うらごろし「水探しの占い棒が死体を見つけた」で、ダウンジングの棒を振り回して温泉探しの正十が、死体を見つけてしまうくだりで使われた。水飢饉の村の水探しの棒を弄んでいたくせに、欲深正ちゃんは「碌なモン見つけへんのや〜」とべそをかくのであった。この作品の場所の設定はよくわからないことが多いが、関八州のどこかと思われる。
丘の上とはっきり判る例は他にもある。必殺仕事人「この世の地獄は何処にあるのか?」は、将軍の日光参詣に事寄せて冥加金を搾り取る大目付の非道に耐えかねた粕壁宿の民からの血を吐くような「依頼」が仕事人たちに届くという話で、依頼状が仕込まれる馬頭観音の御堂に、明るく開けた丘の上に建つお堂が使われている。この際も大目付の追求の手が伸び、村人が虐殺される騒ぎが起こる。接触に入った調査役の半ちゃんは、賽銭箱の陰に隠れて難を避けている。
 これらの例は、たしかに霊場のお堂を使っているのだが、なにしろ八十を超える数のお堂ゆえ、なかなか完全な特定には至らない。

第78番札所 摩尼珠院

地蔵 厳密に特定できるケースもある。子連れ狼(北大路欣也版)「愛と死の道中陣!亡き妻の哀しき面影…」で、刺客依頼の護符が貼られる堂として使われたのは上写真の摩尼珠院である。前の柱に付いている把っ手のような細工で確認できる。
名奉行 遠山の金さん(お奉行は松方弘樹)「女盗賊の三つの謎」で、死んだ盗賊の墓に参った女房と金さんが襲撃されるくだりでは、お堂(特定不能)のほか、左写真のお地蔵さんが映っている。

大窪寺前、放生池と石橋
 結願の寺・大窪寺の前には放生池があり、浅く反った石橋が架かっている。ここも比較的よく使われるところ。
「刀の中の顔」は、家政を壟断する用人を抑え幼君をサポートする大役に抜擢された浪人の話で、新十郎は彼の息子と知り合い関わるが、その出会いの池はここである。池は、画面ではずいぶんスケールがあるように撮られている。設定は神田お玉ヶ池。
吉宗評判記 暴れん坊将軍「幼なじみは大奥の女」では、お庭番のおそのに大奥潜入を命じる上様の姿が橋上にある。暴れん坊将軍では他にも、第二シリーズ「仇姿、つよい女が泣きました」において、公共工事を巡る陰謀に巻き込まれ殺された武蔵屋の葬儀の寺で、武蔵屋が実の父と聞かされる辰巳芸者のシーンが橋上で撮られた。第三シリーズ「これぞ庶民の目安箱」では、新しい「じい」役の田之倉孫兵衛と、め組の辰五郎が初めて会うシーンが、橋たもとで撮られた。
大窪寺裏手、鹿野園法輪塔 法輪塔脇から大窪寺裏手を見る
 大窪寺の裏手にある宝筐印塔まわりも撮影スポット。
先に述べた「刀の中の顔」では、幼君の指南役になるための試合に備え素振りをする浪人・池田種之助の姿が石仏前にある。この浪人を露口茂が演じる、渋い話。
翔べ!必殺うらごろし「童が近づくと殺人者が判る」では、市原悦子演じる「おばさん」の殺しがここで撮られた。不思議な能力で、殺人者を言い当てる少年は、代官たちの悪事を暴いてしまい始末されかかるが、これを「うら殺し」チームが阻むという筋立て。走り役の正十におびき出された侍は、怒気を発し抜刀して追っかけて来るのだが、その途中地蔵さんの前垂れを掛け替えている「おばさん」を見る。「おばさん」はいつものやり口で、ぶつぶつと不気味な台詞を呟きながら近づき、侍を匕首でぶっすりと刺し貫くのであった。地蔵さんは上写真の石仏で、カメラはぐるっと回り大窪寺の屋根なども映りこむ。
成就山からの眺望(南望) 東の尾根から見えるお堂の屋根
 霊場では、高みから京の町を見はるかすことができる。南は、三川合流の山崎あたりまでくっきり見える。手前の町並みをよく見ると、太秦の撮影所も目に入る(上写真左、矢印部分)。双眼鏡を持っていれば、スタジオのナンバーも見える。
京都市右京区御室大内
*参考 ロケ地探訪 仁和寺

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