時代劇の風景  ロケ地探訪

勝持寺  − 参道と門 −


■ 南門下参道

 勝持寺へ、仁王門のほうからのアプローチとなるのが南門下の石段。
タクシーなどで西側から近づいた際には見落としがちな狭い小さなものだが、なかなか味わい深い一件である。
ロングでもアップでもなかなかの構図で、坂下の竹垣もよい背景となる。
このしっとり落ち着いた閑雅な佇まいから、尼寺に設定されることが多く、鎌倉東慶寺に擬されて「駆け込み」のシーンがよく撮られる。

南門への石段  左見上げ、右見下ろし
石段中程  左見上げ、右見下ろし
 鬼平犯科帳「おかね新五郎」では、長谷川平蔵の高杉道場での先輩・原口新五郎が寺子屋を開いている上野池之端七軒町の正慶寺として、勝持寺各所が使われる。平蔵は月一度、原口のもとにやって来る。ドラマでは冒頭、徳利を担いで石段を登ってくる平蔵の姿が描かれる。このあと寺子屋の情景に境内の庫裏や鐘楼が使われるが、これは別項に譲る。そしてドラマ後段、「すあい女」だったおかねを原口のもとへ伴う長谷川平蔵の姿が再び石段に見出せる。年老いた女は、殺された娘の仇をとろうとして果たせず、平蔵に保護されていたもので、死んだ女児は原口の子なのであった。
 喧嘩屋右近「縁切り寺・決心の道中」では、鎌倉東慶寺の設定で、闇の殺し屋だった亭主と別れたい女を茨右近が送ってゆく話。道中執拗な妨害があり、やっと辿り着いた東慶寺門前で右近と亭主の死闘が繰り広げられる。このラス立ちに石段が使われた。撮られた季節は冬、楓はすっかり葉を落としている。
 東慶寺として使われる際はもちろんだが、他の設定でも尼寺が多い。
参道 西向き 参道 東向き
 仁王門を過ぎ山道を辿り、霊園を横目に見て、参道は突き当たりとなり石段に導かれてゆく。この間もよい撮影スポットとなる。
 天下の副将軍 水戸光圀では、柳生十兵衛の娘で光圀の手元にいる女剣客・愛洲友絵が、柳沢吉保の手下・色部を成敗するシーンがこの参道で撮られている。石段も使われている。
 鬼平犯科帳「托鉢無宿」では、盗賊・寝牛の鍋蔵のアジトを突き止める井関録之助のくだりが参道で撮られた。鍋蔵が盗っ人宿へ入ってゆくシーンで石段も映っている。

■ 南門

 南門は、拝観入口となる門で、入って正面には庫裏がある。南門へ至るには、先の石段を登ってくるルートと、東から路地を来る道とがある。
門はもちろん、路地も使われる。

南門 南門から庫裏を見る
南門前路地 東向き 南門前路地 西向き

 暴れん坊将軍 II 「女の聖域 駆込寺無情!」では、東慶寺設定で使われ、品川までの遠乗りのつもりが鎌倉まで来てしまった上様と大岡忠相が、普請奉行の妻女が駆け込むのを目撃するくだりが、南門と路地を使って撮られた。尼僧が門を閉めるシーンでは「東慶寺」と大書された看板が左手に掲げられていたりする。事態を案じつつ場を去る上様の姿が、上写真「南門前路地 東向き」と同アングル。
暴将では、IV「女賞金稼ぎ、江戸を斬る!」で、賞金首のワルとつるむ生臭坊主・真海の寺・妙法寺として使われた。大岡忠相が捕り方を引き連れて門前を固めるシーンがあるが、捕り方の先頭に福本清三氏が見られるのも面白い。


■ 東門

 東門は、隣の願徳寺の南塀が尽きたところにある。ここも正面は庫裏で、少し離れると庫裏の破風が門の上にちょこんと頭を出しているのが見える。東門から続きの塀は南東角で緩やかに曲がっていて、優美な曲線を見せている。ここもよいポイントとなる。

東門 願徳寺南塀ぎわから東門
東門左手のラウンド塀 ラウンド塀から願徳寺塀を見る
 また又三匹が斬る!「姫君のお毒見役、三匹参上!」では、藤堂藩が舞台となり、出生の秘密を知り荒れて辻斬りを働く藩主の話があるが、夜の城下に出る白頭巾の辻斬りのくだりで、東門付近がふんだんに使われている。千石こと久慈慎之介が植え込みで用便を足して、拭いた拭かないとお下品なやりとりもある。殺陣はスピーディーに東門周辺を使って繰り広げられる。カーブの塀も効果的に使われている。
 暴れん坊将軍 II 「のぞきは下手な鬼同心!」では、怪しの虚無僧が多数出入りする柏木村の寺として使われ、わらわらと寺へ入ってゆく虚無僧たちの姿が石段や、ラウンド塀付近にある。上写真の、遠景に願徳寺塀が映りこんでいる写真と同アングルのものもある。
 杉良太郎の薄桜記では、吉良を狙って江戸に潜伏する堀部安兵衛の道場として東門が使われ、丹下典膳と対決に出てゆく際は雪景色である。

■ 仁王門

 仁王門は、応仁の乱の戦火を免れた、勝持寺で最も古い建造物で、大原野神社や正法寺の入口を過ぎ淳和天皇陵のほうへ行く道から入る。
門を過ぎて鬱蒼とした森を抜け霊園前を過ぎると、先に述べた参道石段に辿り着く。
傾斜のきつい森の道は少し前まで地道だったが、今はコンクリートで固められている。歩きやすくはなっているものの、情緒は些か減じられた。
仁王門は丹の剥げ具合が絶妙の風情で、なかなかの存在感がある。

仁王門と石段 仁王門基部
仁王門下 仁王門見返り
 盤嶽の一生「男と女」では、山寺の門で寝ていた盤嶽が、門前で子らに飴を売る男に言いがかりをつけ、弱虫の子供を叱り飛ばし「そんないい加減な世の中にしたのは誰だ!貴様たちのような金の亡者だ!」と場違いな演説をぶつシーンが、仁王門前で撮られた。
 新三匹が斬る!「羽黒山、天狗も泣いた色と欲」では、謀略に巻き込まれたオロシヤの船員・サハロフが出羽の山中に潜む設定がある。異国の山に一人暮らす露人は、寂しさのあまり土地の娘をさらって妻とするが、娘をさらわれた母は最上川を望む山寺の門下に座り込み待ち続ける。その門に仁王門が使われ、雨宿りに来て老母に声をかける殿様こと矢坂平四郎の姿がある。
 風「海原はるかに」では、老中・水野忠邦失脚が濃厚になった時勢のもと、新十郎の隠れ家を訪ねる北町同心・左近のダンナの姿が仁王門門前に見られる。
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