冬野川
■ 多武峰から下る細谷
←左写真は明日香村上(かむら)の山中。
冬野川は、植林杉の多い山に深い谷を刻む。
水量は少なく、鬱蒼と茂る木々が川面を覆いつくす。
川に倒れかかって朽ちた木には、びっしりとキクラゲが生えていたりする。
山向こうの谷筋には、寺川が流れている。
茂古の森 | 新上橋から里を見下ろす |
林間を抜けた川は、気都和既(けつわき)神社社叢の脇を下り、飛鳥を見はるかす谷を開きはじめる。
神社は気津別命と天児屋根命を祀る古いやしろで、気都は食物を指す古語「ケツ」で、稲作の守護とされる。この神は同時に川と水の守護神でもある(キツワキと訓む例も見える)。
この宮の社叢は「茂古の森」と称される。読みは「もうこ/もうこん」で、大化改新の折り、蘇我大郎・入鹿の首に追われた中臣鎌足が飛鳥からここまで逃げて「もう来んだろう」と息をついた、という故事からきている。境内には鎌足が腰掛けたと伝わる石も残っている。
川相は、大きめの石がごろごろする谷。なにしろ傾斜のきつい川なので、落差工も多い。
新上橋付近の流れ |
■ 上(かむら)の里
川は、旧道沿いに流れ下る。
白壁が美しいしっとり落ち着いた里は道沿いに集中し、裏手に棚田が作られる。
道も川も、きつい坂をおりてゆく。
水辺におりる階なども見られ、現在でも川と人とが近しい関係にあることをうかがわせる。
里から茂古の森を見上げる | 家々は谷に面して建つ |
川相は、古い様式の護岸が施された深い谷。
河床には大きな石が転がり、瀬を作り出す。
表紙に挙げた万葉歌の「細川の瀬」音を、いまも聞くことができる。