川を訪ねる旅

糺の森の川
ただすのもりのかわ

 幅は3〜5mくらい、河床や護岸はもちろん自然のもので、平地を流れ周囲には林を従えくねくねと蛇行しながら木漏れ日の射す中をさらさらと流れてゆく。
そういう川を目にするとき、私は至上の喜びを感じる。それはかつて身近にあった「里の川」の典型的な姿であり、Biological integrity の高い自然度に優れた理想的な川の姿でもある。
こんな川を生活環境の中に万人が持てればどんなにいいだろうといつも思う。
その川に幼な児が遊ぶ時その記憶は必ず心の奥底に刻まれ、その川を暮しのたつきの合間に逍遥する時ひとは如何様なしがらみからも解放されるだろう。

 はじめて糺の森を流れる泉川を目にした時、もはや都市部と呼んでいいくらいの建て込んだ環境にあってこのような川が残されているのを奇跡のように思った。
 今、下鴨神社では社叢の糺の森をかつて流れていた小川を復元する作業に取り組んでいる。
取り組みは着々と進み、最初に訪れた時にはしらじらと河床を曝すばかりであった瀬見の小川は今しっとりと林床を流れている。人工的に復元された、本来のものではないとわかっていても嬉しい。
今回、参道を横切っていたもう一つの小川を復元する工事の最中で、フェンスが張られブルーシートで地面を覆われた工事現場を目にしたが、そのブルーシートさえ愛しいものと映った。
現在糺の森を流れる小川の水はここを源とする湧水ではなく、人工的によそから取られた水で、決してきれいなものではない。科学的調査をせずとも瀬を噛む流れの先に泡が消えないでいるのを見ても、小さな淵に滞った水に油の浮いているのを見てもそれは判る。また、各地の川で御定まりの心無いゴミの投棄も見かけた。また、この森のすぐ上手を流れる泉川が三面張りの都市河川であることも知っている。
 「実」はあとからついてくればよい。河川の浄化はその源から考えねばならず、一朝一夕に成るものではない。
山城原野の名残としてある糺の森とそこに流れる細流を大事に思い護っておられる関係者各位に敬意と感謝をこめてこの一文を草する。

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・糺の森  ・泉川  ・瀬見の小川  ・ならの小川  ・みたらし池


撮影地  京都市左京区下鴨泉川町、下鴨神社境内   撮影日  2001.3.25


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