川を訪ねる旅

糺の森の川

 瀬見の小川 

 永らく涸れたままで河床を曝していた瀬見の小川が、1994年からの下鴨神社の取り組みにより復活した。復活した当初はなにかぎこちない風景だったが、今回訪問時に拝見したところ、まるでもうずっと途切れずにそこにあったかのようなしっとり落ち着いた流れとなっており、とても嬉しく思った。

 瀬見の小川は泉川のように流量のある川ではなく、足を浸してもくるぶしまで届かないような細流である。ちょうどマガモのつがいが川にいて、流れに沿って下ってゆくのだが、泳いでいるかと思えば瀬に乗り上げて歩き出すという始末だった。

 瀬見の小川の流路は、流鏑馬神事が行われる馬場と参道の境を南流するというもので、参道南詰の大鳥居の西で水を溜め、末は暗渠で泉川に注いでいるらしい。水際にはていねいに水生植物が植えられ、左右には樹々が生い茂る。

 この川のもとは本殿横のみたらし池から来るならの小川で、社を出てから本殿の南の森の中にある亀島と呼ばれる古代の祭祀場跡付近で奈良殿橋をくぐり、瀬見の小川と呼称を変える。
「鴨社古図」には瀬見の小川は賀茂川の分流で、本殿西側の斎院御所の西を流れ、馬場の西を南流し河合神社のほうへ流れていたとあるが、今と流路が微妙に異なる。たぶん、洪水なり人為なりのために改変を受けたものと思われる。現在ある瀬見の小川は、ならの小川の下流部となっている。

 先頃亡くなられた歴史学者の奈良本辰也氏が、晩年に著された「日本の滝紀行」という労作のあとがきに「最も愛する水のある風景」として瀬見の小川を挙げておられた。氏はそれに魅せられるあまり御自宅に瀬見の小川のミニチュアを造ったと書いておられた。

 泉川に加え瀬見の小川が流れるようになった糺の森はいよいよしっとりした森となり、神聖さはいや増すばかりである。
どうかすると消えてしまいそうにささやかで儚い流れを大事にしたい。

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