川を訪ねる旅

大和川 国中を歩く

−  堰堤と水質  −

 大和川流域には有史以前からたくさんの人が住みつき、この水系の水を利用してきた。今もそれは変わらず、飲み水こそ上流ないしは他水系からとるようになったが、農業用水は大和川からの取水となる。紀ノ川からの吉野川分水が奈良盆地の灌漑を助けてはいるものの、大和川の水は奈良の農業にとってなくてはならないものである。

 川の水を農地に引くには様々な方法があるが、現在大和川においては各所に細かく設けられた井堰から水門を通じて引かれるのが一般的である。
この河川横断工作物が水質・環境に与える影響は大きい。
今回、大和川中流部を歩き、堰堤の種類によって川相が目を見張るほど変化するのを目にした。以下はそのレポートである。

■ 旧タイプのコンクリート堰

 これは初瀬川(大和川上部称)がまだ初瀬の谷を流れている桜井市黒崎地区から、川が三輪山の裾をめぐりいよいよ盆地へ出て行こうとする区間に設けられているもので、作られたのはかなり昔である。
構造こそ川幅いっぱいに設けられているものの、堰中央部もしくは全面で堰下においても充分流れが維持できる程度の水を流していて、よく言えば環境への影響が少なく、悪く言えば非効率的な取水設備ということになる。

桜井市金屋 桜井市三輪

 ざっと見た感じでは、このタイプの堰堤周辺には生き物の姿が多い。
堰の上では滞水域で小魚が繁殖しやすい環境が作られ、堰の下では浅瀬と中洲が形成されて鳥などの生き物が身を隠しやすい空間が作られている。
堰としての構造の「ゆるさ」がたまたま生み出したささやかな自然空間と言えよう。

■ 鉄板の堰

 杭を幾本か並べて川の中に打ち、そこへ鉄板をもたせかけてあるタイプのことである。浅学にして正式名称などは知らない。
これは川を幅いっぱいに堰きとめる。流下する水は鉄板の上をオーバーフローするか或いは板の隙間から僅かに漏れ出るちょろちょろとした流れのみである。

桜井市三輪 三輪大橋手前

 このタイプのものは桜井市三輪から桜井市北西部にかけてと天理市、川西町において見られる。また、大和川支流の竜田川や富雄川・佐保川水系の諸川にも多く見られる。
湛水区間が広くなるので、先に述べたタイプのものよりも水面が開け、生き物が隠れる場所が少ないので生物相が単純になる。また、流下水の少なさは水質に決定的な打撃を与える。

■ ゴム堰

 厚手の丈夫なゴムで作られ、膨らませて使用するようになっている。たいていは膨らませたままになっている。

田原本町蔵堂

 このタイプのものは完全に水を止めてしまう。水が流れるのは大雨が降って堰を越えて流れる時のみである。普段は一滴の水も下へ漏らさない。
これがいくつも連続してあると、川は巨大な溜池と化す。むろん水質は悪化するばかりである。
 川を回廊として行き来するものはもちろん姿を消し、生き物の姿が絶え果ててしまう。
このタイプのものがあるのは農地の多い区間であるから致し方のないことかも知れないが、今回川べりを歩いていて一番楽しくない区間であった。
桜井市北西部から田原本町の全区間がこれである。サギ類の姿も釣り人の姿も散歩をする人の姿も無かった。


 水を滞らせると腐る、当たり前のことであるがほんの半日川べりを歩くだけで痛い真実である事がわかる。
もっと巨大な施設であるダムなど、いかほどの影響を環境に与えるのか、空恐ろしいものがある。
 それにしても、水質に重大な影響を齎す工作物が揃いも揃って醜悪なデザインのものであることに驚く。


■三輪山の麓  ■桜井市北西部から田原本  ■天理  ■川西町  ■郡山  ■安堵  ■堰堤と水質

■ 大和川 国中を歩く・表紙


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