淀川  ■ 宇治  京都府宇治市


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■ 中の島

宇治橋から中の島遠望 宇治川がやっと平地に出てくるあたりは、古来山紫水明の地として名高い洛南の名勝である。
左岸側には藤原氏全盛期の別業であった平等院が建ち、右岸側には仏徳山の麓に興正寺や宇治神社・宇治上神社などの古寺古社がひしめき、国風文化華やかなりし頃の平安貴族の残した文物を偲ばせる。
またときに戦場ともなり、源平の戦いの宇治川先陣の碑が残り、源三位頼政の自害のエピソードも残る。
 川には中州があり、公園となっている。
春には桜、夏には鵜飼、真冬には寒バエ釣りが川に立ち込むなど、四季折々に人をひきつける地である。
 中州の西の流れは下で堰かれているので静水域となっていて、けっこう有名なバス釣りのポイントとされている。
またここには鵜飼の舟が係留されている。
鵜飼で活躍するウの小屋は中州にある。
夏の間は鵜飼のほかあみ舟が出て、舟遊びを楽しめる。
船上では宇治川で獲れた魚が供される。
宇治川ラインの舟がなくなった現在、宇治の山水を満喫できるあみ舟は貴重である。

朝霧橋から谷口を望む 朝霧橋から下流方向

 宇治の魅力はなんといっても川である。中州に渡された朝霧橋に立ち川風を受けるのはまことに気持ちのよいものである。
右岸側の観流橋下から発電所の放水があるので、朝霧橋付近の宇治川は水量を増し往時の激流をいっとき取り戻し逆巻いて流れてゆく。
この水は大津市南郷の石山制水門から、京滋の山なみを穿って通された導水路を経て流れ出すもの。
京滋バイパスと同じように瀬田川の曲折を避けてショートカットする経路を辿る。
観流橋下の流れは見ていて怖いほどである。
激流ゆえ時には水難事故も起きていて、中の島から川におりるテラスには最近立入禁止のロープが張られている。

朝霧橋 喜撰橋 橘橋
鵜舟 観流橋 分流の末のカスケード

 中の島は塔の島と橘島に分かれていて、橋が渡されている。
静水域となる西方には橘橋と喜撰橋が架かっている。
どちらも浅く反った優美なつくりの橋で、橘橋のほうは時代劇撮影にも使用される。
鬼平犯科帳(中村吉右衛門版)のエンディング、ジプシーキングスのインスピレイションが流れるなか映し出される日本の四季の「秋」に使われた橋は橘橋である。
宇治川右岸に渡る橋は、激流ゆえ丈夫な高いものが架かっている。
しかし景観に配慮した朱塗りのもので、擬宝珠も桁隠しもついている。
西方の分流は流末が階段状にデザインされている。
ロッドを振る釣り人がよく立ち込んでいる場所である。

橘島前の荒瀬 橘島舳先から宇治橋を遠望

 宇治の逆巻く流れを眺めていると想起されるのは、源氏物語宇治十帖である。
光源氏の子・薫大将と帝の子・匂宮との三角関係に疲れ果てた浮舟は、懊悩のすえ入水を選ぶ。
物語には、つねづね恐れていたその激流に身を任せた彼女の悲哀を嘆く周囲の者の眼前にくろぐろと横たわる夜の宇治川が活写されている。
匂宮に連れられて橘の小島に遊ぶ浮舟の場面もあるが、現在の中の島とは位置や様相は些か異なるようである。

■ 宇治橋

 宇治橋は7世紀に元興寺の僧・道登が架けたものがはじめとされる。
たびたび流失し、その都度架け替えられてきた。
現在の宇治橋は1996年に新設されたもので、コンクリート製ながら装飾には木が使われている。
今もひっきりなしに車が通るこの橋は昔も交通の要衝で、たびたび戦場ともなった。
その際には戦略上の処置として橋が落とされることもあったという。

 宇治橋はその古い歴史ゆえさまざまなエピソードを秘めている。
いまも再現されている三之間には、秀吉がここから茶の湯に使う水を汲ませたという逸話が残っている。
三之間は橋を守護する女神・橋姫を祀った名残りともいい、西詰めには橋姫神社が残る。
女神はまた宇治川の水神そのものでもある。
東詰めには聖徳太子の発願という橋守りの寺もあり、宇治橋初架橋を記念した碑が残されている(宇治川断碑)

宇治橋(北面) 宇治橋の擬宝珠と桁隠し
宇治橋 三之間 宇治橋東詰から

 京阪宇治線の終点・宇治駅を降りれば、すぐに宇治橋東詰めへと出る。
豊かな水が急な流れで宇治橋を洗いゆくさまがまず目に飛び込んでくる。
この橋の上から宇治川を眺めるだけで宇治へ来た甲斐があるほどの、けっこうな景である。
橋は幅広く両に歩道もたっぷりとられているので、そぞろ歩きにも適している。

茶屋・通円 抹茶ソフト
 宇治橋東詰めには八世紀もの古い歴史を持つ茶店がある。名を通円といい、吉川栄治の小説「宮本武蔵」にも描かれている。武蔵の姉が嫁いでいたり、恋人のお通が奈良行きの途中で立ち寄ったりと、重要な場面で登場する。ここでは茶を喫するのもよいが、夏場には抹茶ソフトも美味。
宇治橋上手には芥留杭が並ぶ。杭は流出物をからめ取る装置。
こんな小物もきちんと木で作ってあるあたり、細やかな配慮を感じる。
どこか澪にも似た杭を川波が洗うさまは、見た目にも涼しげで風情がある。

 宇治橋直下にJR奈良線の鉄橋が渡る。単線のローカル線で、あまり本数はない。
人と車で賑やかな宇治橋から少し離れるとのんびりした雰囲気。
堤は地道で、堤下のごく狭い土地にも茶が植えだされているのがいかにも宇治らしい。

JR奈良線鉄橋 京阪宇治駅近くの堤から
京阪宇治駅脇の茶畑 右岸堤上の地道

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